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「へえ、素直なんだね」紫霧は機嫌よく言いました。「じゃあ、砕けて?」と、言うと紫霧は手に持った鏡をくるっと返し、アイラを映しました。  鏡に教室内とアイラが逆さまに映し出されました。床が上に、天井が下に。  鏡の中で、誰かの消しゴムが落ちました。アイラが振り返ると、一番後ろの机の上の誰かの消しゴムが砕けました。次にひとつ前の席の誰かのシャーペンが、そしてまたひとつ前の誰かの部活用のシューズが鏡の中で落ちて、音もなく砕けると、同時にけたたましい音を立てて現実世界でも砕けていきます。   「なによ。現実世界で上に持ち上がらなくても砕けるんじゃない……。じゃあ、今まではなぜ……?」とアイラは呆然と呟きました。 「その方が、印象に残るでしょ? ウィスハートさんの手に触れた物が、飛び上がり、落下し砕ける。因果関係がハッキリしている。でしょ? それにもう一つ理由があるんだけど、それももうすぐに分かるよ」  紫霧は嬉しそうに、アイラの耳元でささやくように解説しました。  アイラの立っている場所から遠い位置で始まった落下の連鎖が、ガシャッ、ガシャッ、と徐々にアイラに近づいてきました。  そしてアイラのすぐ後ろに立っていた、サラサラの髪の男子のリュックが鏡の中で落下し、中身もろともはじけました。同時に男子生徒のリュックの中で、ガシャッ、という金属が砕ける音……。リュックが破れ、くだけた中身が飛び散りました。  「これ、さっき、ウィスハートさんに拾ってもらった……」と男子生徒は呟いて、恐ろしいものを見るように、アイラを見ました。  アイラはゆっくり首を振りました。それは自分がやったのではない、という意味なのか、それとも自分を信じてもらうことはできないだろう、という諦めなのか、私には判別できませんでした。  男子生徒の髪が、サラっとなびくように揺れました。よろけるように、後ずさったのです。男子生徒の姿が、鏡からフレームアウトしました。残されたのは、アイラただ一人です。
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