妻の日常

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妻の日常

最近、朝は特に体調が悪い…食欲が無いし、そもそも体が怠くて仕方がない。これがいわゆる悪阻というやつなのだろう。 職場に無理を言って、朝番を極限まで減らしてもらった。もちろん、理由は言えなかった。原因不明の倦怠感、ということで押し通した。 そして朝番を減らせたのは、パートさんたちの協力の賜物である。 『ねぇ、デキちゃってたりしない?』 『更年期…にはまだ早いしねぇ』 『でも辛いならいつでも代わるから、遠慮しないで言いなさいよ!!』 ひと言ふた言多い気もするが、同じ女性同士、体調不良についてとても理解して寄り添ってくれた。欠員が出てもパート内で補ってくれている。本当に感謝しかない。 私、みんなにこんな風に優しくできていただろうか…。 いつも『行き遅れ』だの『結婚しろ』だの言われていたが、みんなは私のこと心配してくれていたのだろうか…。 噂話が好きなのは本心だろうけど。 こんな風に優しくされて、私ももっと職場に優しさを還元していきたい、と初めて思えた。惰性で続けていた仕事だけど、少しだけ好きになれた気がする。 人に恵まれるって、幸せなことだ。 もちろん、しょーちゃんも。 ――― 「最近はさくらが朝家にいてくれるから嬉しい~!」 夫は毎朝ニコニコだ。 「でも仕事は大丈夫なの?」 「うん、新しく朝番の人が入ってくれたから」 「そっか!なら安心だね!」 うん…みんなが助けてくれてるから。安心だよ…。 「あれ?今日はカフェオレじゃないの?」 しまった、バレたか…。 味覚が変わって、カフェオレ飲めなくなったんだよね…。 「うん、飲んでみたらハマっちゃって。おいしいね」 「だろ~!?朝からサッパリするっていうかさぁ、俺昔から好きなんだよね~!」 良かった、いつも通りだ。 そもそも、グレープフルーツジュースを飲んでるだけで悪阻だ妊娠だと言う男性のが少ないだろう。夫もそちら側の人間で助かった。 私は気分が優れないのを懸命に隠しながらニコニコと笑顔を作り、夫が嬉しそうに話すのを聞いていた。とにかく、変化に気付かれないようにしなければと必死だった。 「じゃ!俺が今日はカフェオレにしちゃおっかな!?」 「…なんか怖いから作ってあげるよ」 ここにあるカフェオレはデカフェだ。飲む分には違いは分からないが、パッケージに『ノンカフェイン!』と強く謳われている。半ばカフェイン中毒のような私が、急にデカフェに変えていたら…さすがに気付かれそうで怖かった。 「ちょ、コップに注ぐだけじゃね!?さすがにできるし!!」 カフェオレくらい、いつでも作ってあげるよ。コップに注ぐだけなんだから。 だからお願い。 私の変化に気付かないで。 ――― 私は少しずつ準備を始めていた。 生活費は夫の給料で全て賄えており、私の給与口座には数年分の給料がただただ振込まれるだけの状態だった。資金は十分すぎる程にある。 普段は使わない、小さなトートバッグに最低限の荷物を詰めていく。 あとは友人にアポを取るだけだ。
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