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消えた妻
今日の俺の仕事は少しだけ朝が早かった。
目が覚めると、隣にまだ妻が横になっている。起こさないように気を付けたつもりだったが、ゴソゴソと動き始めた。
しまった、起こしたか…?
「しょーちゃん、おはよ」
少し眠そうな、しかしすぐに笑顔で俺にハグを求めてきた。妻から求めるなんて、いつぶりだ。久しぶりすぎて心臓が口から出そうだ。
「さくら…おはよ。嬉しい…」
俺は優しく抱き締めて、妻の髪を撫で、軽く唇を合わせた。
「んっ…もっかい、して?」
なんだなんだ!?今日の妻は積極的だな!?嬉しいけれど、仕事だ。キス以上はできない。
軽いキスを何度も交わし、名残惜しくも俺は妻から体を離した。
「これ以上は…ハァ…仕事に支障が出そうだから…」
情けないことに、余裕なんてなかった。僅かに残った理性で自分を押し殺した。
「うん、ごめんね、朝から変なことして…」
「いや!俺はすごく嬉しかった…し、今日は帰るのが楽しみになったっていうか…」
顔洗ってくる!
と妻に背を向けて寝室を出た。これ以上は無理。男はつらいよ。
―――
「じゃぁ、行ってくるね」
「うん、バイバイ」
玄関で見送る妻の笑顔が歪んで見えたのは気のせいだろうか。
―――
仕事が巻いたので帰宅が早まった。といっても22時。妻は起きているだろうか。
胸躍らせて帰宅するも、部屋の電気は消えていた。もう寝てしまったみたいだ。
そっと寝室に入り、ただいまのキスを…しようとしたが、ベットに妻の姿は無かった。
リビングも真っ暗、ソファにも寝ていない。トイレ、バスルーム、全て探したが見当たらない。
仕事帰りに何かあったのか…??
スマホに電話をかける。
『お客様のおかけになった番号は…』
繋がらない。
綺麗に片付いた部屋。
いつもと変わらぬ景色。
妻だけが、消えてしまった。
事件に巻き込まれたのではない。
自分の意思で、出て行ったのだ。
その証拠に、出会ったキッカケでもあるライブチケットの半券が玄関に置かれていた。
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