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告白
トートバッグひとつで私は東京駅に向かった。
実家には帰れない。こんな体で帰れるわけがない。何を聞かれても答えることができない。実の親にさえ、本当のことを話すことはできない。
日常が非現実的で幸せに満ち足りていたため、気付かなかった。が、私はどうやら孤独なようだ。
それでもこのまま東京にはいられない。少しでも遠くに行かなければならない。
皮肉なことに、お金だけはあるのが悲しい。
トップアイドルの収入は桁違いで、私は何のために働いているんだ、と虚しくなることもあったが、貯金しておいて本当に良かった。
先程解約したスマホを、別の会社で新しく契約し直した。もちろん、番号も変えた。連絡先は断捨離した。
入っているのは家族と、親友の彼女と…しょーちゃん。
私から連絡しない限り、決して鳴ることない番号。それでも消せなかった。チケットは置いてこられたのに。
本当に、繋がりが何もなくなってしまうことが、耐えられなかった。
こんなことを考えていると、いつの間にか私は新幹線のホームにいた。そのまま勢いで博多行ののぞみに飛び乗ってしまった。
福岡には高校時代の親友がいる。SNSで連絡を取り合うことはあっても、事情など何も知らない。住むところが決まるまでは居候させてもらおう…。
そうしてほぼアポ無しで福岡まで行くことになった。
『急で申し訳ないんだけど…今晩泊めてもらえないかな?』
『ほんとに急だな!別にいいよ』
必要以上に干渉してこない、そんな彼女だからこそ親友になれた。急なお願いにも関わらず理由を聞いてこない、そんな彼女だからこそ、私も安心して頼ることができた。
のぞみといえど、博多までは5時間もかかることに驚いた。普通は飛行機で行くんだろうか。そんなこと、頭に無かったな…それより、彼女になんと話そうか…。
そんな風にグルグルと考えを巡らせているうちに、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
「終点ですよ」
と車掌に声をかけられ、博多駅のホームに降り立った。
ふぅ…危うく車両ごと車庫入れるところだったわ。
―――
時刻は16時。
お昼ご飯を食べ損ねたので、駅前のファミレスに入った。彼女に駅に着いたことを報告しようとスマホを取り出した時、店の有線でしょーちゃんの曲がかかった。
それもそうだ、なんせトップアイドルなんだから。
でも今聞くのは…つらい。
耳を塞いでも、イヤホンで他の曲を聞いても、聞き慣れた声が頭にこだまする。
私はファミレスのテーブルに突っ伏して涙を流しているのを必死に隠した。
―――
ピコッ。
スマホが鳴るなら相手は1人だ。
『仕事終わったよ!今どこ?』
『駅前のファミレス』
『じゃあ〇〇駅で落ち合おう。それから家に行こうか』
『ありがとう、今晩はお世話になります』
『改まりすぎ!』
その後も、他愛の無い話をしながらお互い〇〇駅へと向かっていった。
知人が誰もいないという解放感、コソコソとしなくていい解放感、とにかく私はのびのびした気持ちで駅へと向かっていた。
「久しぶり〜!」
数年ぶりに会うと言うのに、そんなことは微塵も感じさせない。それも彼女の魅力だ。
…東京にいた時は、友人と呼べる人はいなかった。職場の人と表面上の雑談をする程度。友人と楽しく会話をするというのは、なんて楽しいことなんだろう…!
「…荷物重そうだね、持つよ」
「え!?そんなことない…」
「じゃあ交換ね〜」
彼女のバッグは小さなショルダーバッグで、私のトートバッグより遥かに軽いものだった。
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