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「ほう…あの御村くんのお子様がこのお腹に…」
頭を撫でていた手で、私のお腹が優しく撫でられる。私以外、誰にも撫でられたことのないこの子は、喜んでくれたかな?
「しょーちゃんよりカナが先になでなでしてくれちゃったね」
「御村くん怒るかなぁ」
「もう関係ないから大丈夫でしょ」
努めて笑って話したつもりだったが、カナの表情を見る限り、私は泣き顔だったのかもしれない。
「…これからどうするの、色々と」
「貯金はあるから出産費用と当面の生活費はあるけど、産まれてからはなんとも…」
仕事は有休消化したら、産休をお願いするつもりだ。そして、育休期間が終わる頃、退職という、なんとも小狡い方法でどうにか賃金を得ようともしていた。
退職していない限り、就業することもできない。もっとも、安定期に入った妊婦を新規雇用するような職場などないだろうけど。
「…今から産後のために節約していくよ」
「ちょっと位お金貰ってくればよかったのに!」
「一応他人だから窃盗になるでしょ」
少しでも暗い空気が漂うと、明るい空気に変えてくれた。きっと1人でいたら何も手に付かなかったかもしれない。
カナがいてくれてよかった。
「貯金、って数年分の全給与だから結構持ってるからね!?」
「なんだよ、大金持ちじゃん!!心配して損した!!」
ほんと、カナがいてくれてよかった。
ありがとう。
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