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1.憂鬱な帰郷
10時7分、品川駅発の「のぞみ」新大阪行きに乗って2時間10分。
京都駅から近鉄京都線に乗り換えて急行で約45分。
近鉄奈良駅で降りると、盆地特有の足元から蒸しあげられるような暑さが全身を包んだ。
「あっつー……」
私は片手にボストンバッグを持ち、もう片方の手で小型のキャリーを引きながら東改札口を抜けた。
エスカレーターをあがって地上に出ると、七月の強い日差しがまともに降り注いで私は目を細めた。
外に出る前に日焼け止めを塗り直さなかったことを一瞬後悔したが、すぐに
(ま、もうそう気にすることもないか……)
と思い歩き出した。
ここから、東大寺の西側にある実家までは歩いても10分ちょっとの距離である。
駅を出てすぐの国道369号線を県庁の方に向かって歩いていくと、すぐに街路樹の木陰に座っている鹿を数頭見かけた。
ほんとに帰ってきたんだなあ、と改めて思いながら、私はボストンバッグを持ち直してまた歩き出した。
奈良に帰ってきたのは、一昨年の祖父の七回忌の法要に戻って以来だからおよそ二年ぶりということになる。
東京の大学を卒業したあと、「地元へ帰ってきてこっちで就職しなさい」という両親(おもに母親)からの言葉を振りきる形で、丸の内にある百貨店への就職を決めたのが五年前。
以来、土日祝日、年末年始と世間が休みの時ほど忙しい職場なのを良いことにほどんど帰省をしなかったのには理由があった。
母は、23歳で父と結婚した。親戚の紹介からのお見合い結婚である。
いわゆる「バブル期」の真っ只中の世代での二十代前半でのお見合い結婚は当時としても珍しかったようで、友人たちの間ではトップをきってのゴールイン(母は毎回その言い方をする)だったそうだ。
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