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(な、なに、この人。介抱ドロボウっていうのは聞いたことあるけど親切なふりして荷物をまき上げる気!? それとも修理してあげるって言って変なところへ連れ込もうとか……)
いや、そこまで悪質なのじゃなくてもそもそも、こんな平日の昼間に作務衣姿なんかでウロウロしている若い男って時点でちょっと変な人なのかもしれない……っ。
そこまで考えると、私は夢中でボストンバッグを自分の腕のなかに取り返した。
「そ、そっちももういいです。返してください」
「え? だってこれ重いよ。車輪壊れてたら手で持って運ぶの大変だ……」
「いいんです! 本当に大丈夫ですから!!」
ほとんどひったくるようにしてキャリーを取り返すと、私は両手に荷物を抱えてヨタヨタと歩き出した。
男性が呆気にとられたように見送っているのが分かる。
(お、重い……っ)
けれどここで荷物を下ろして持ち直したりしていたらまた何か言われるに決まっている。
私は左肩にボストンバッグをかけ、両腕で子供を抱っこするようにしてキャリーを抱えると、男性が何か言ってこないうちに必死でその場をあとにした。
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