6.情欲の罠

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6.情欲の罠

屋台で、珍しい焼き菓子と可愛らしい鳥の形の置物をみつけた藍珠は翠蓮のためにそれを買った。  東風(ドンフォン)は、自分で申し出た通り荷物を持ってくれたが、屋台を覗いているときや人ごみを歩くときに、やたらと藍珠の手や肩に触れて、ぴったりと体を寄せてくるのには閉口した。 「あの……」  と抗議しかけると、 「なんだよ。おまえみたいな田舎者、この人ごみじゃ、こうしてないとはぐれちまうだろ」  と言われてそれ以上何も言えなくなった。  持てないほどの荷物ではないし、藍珠としてはいっそはぐれてくれた方が気楽なぐらいだったが親切心で言ってくれているのをむげに断るのも申し訳ない。  実際、体格のいい東風と歩いているとまわりの方が避けてくれるので、人にぶつかられることもなく歩きやすいことは確かだった。  東風は、何度か皇都に来たことがあるらしく、勝手知ったる足取りで悠々と歩いていく。 「ほら、こっち」  なかば無理矢理に手をつながれて歩くうち、いつの間にか屋台の並ぶ場所から外れて人気のないところに来てしまっていた。 「ねえ、宿舎への道はこっちじゃないんじゃない?」  声をかけたが東風はかまわず歩いていく。  ついには倉庫みたいな建物がならぶ、うら寂しい場所に来てしまった。 (何よ。人を田舎者扱いしておいて、自分だって道に迷ってるんじゃない)  腹立たしく思いながら、 「ねえ、戻りましょう。私早く帰らないと」  と踵を返しかけた途端、いきなり東風が抱きついてきた。
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