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「隠すなよ。もっと見せてみろ。その真っ白い肌で、俺を誘ってみろよ。おまえの母親がそうしたみたいに。誑かして夢中にさせてみろ。そうしたら、死ぬほど可愛がってやるよ」
東風は、にやにやと笑って言った。
藍珠を腕の中から逃しても慌てる風もない。
その時になって藍珠は気がついた。
こんな人気のない場所では、泣いても叫んでも誰にも聞こえない。
東風はそれが分かっているから、こんなに余裕ぶっているのだ。
どんなに泣いても足掻いても、もう藍珠は自分のものだと分かっているから。
(そんなの絶対に嫌!!)
地面に張り付いたように竦んでいた足を引きはがすようにして、藍珠は東風に背を向けて走り出した。
それが引き金になったように東風のなかで燻ぶっていた情欲に火がついた。
懸命に逃げる藍珠にやすやすと追いつくと、その華奢な体に背後から飛びかかり押し倒す。
「いやっ、やめて、離して! 助けて、涼雲!!」
泣きながら恋人の名前を呼ぶ声を聞いた瞬間、全身の血がカッと燃え上がるような高揚感と、征服感が込み上げてきた。
「いくら叫んでも涼雲はここにはいねえよ。観念して俺のものになりな」
「いや! いやよ! 助けて! 誰か助けて!!」
東風の大きな手が全身をまさぐり、引きちぎるように帯を解こうとする。
藍珠は夢中で、自分の胸に顔を埋めてくる東風の耳をつかみ、力まかせに引っ張った。
「痛っ!」
一瞬、ひるんだ隙に体を捻り、おぞましい腕のなかから抜け出す。
「おい、こら待て!」
背後から追いかけてくる声に、振り向く余裕もなく転がるように駆けだし、路地を曲がった藍珠は次の瞬間、何かにぶつかり、その場に転がった。
(痛……何?)
痛みをこらえながら顔をあげた藍珠の目に飛び込んできたのは、驚いたような顔でこちらを見下ろしている鮮やかな紺青色の長衣を着た青年の姿だった。
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