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7.突然の出逢い
長衣の男は、倒れている藍珠とそのあとを追ってきた東風を交互に見てちょっと眉を上げた。
東風は男を見て一瞬怯んだが、すぐに藍珠の腕をつかんで立ち上がらせようとした。
「来い!」
「いや、離してっ!」
藍珠は必死に抵抗したが力では叶わない。
そのまま、なかば引きずられるようにして連れ去られそうになったところで長衣の男が口を開いた。
「女が嫌がっているではないか。離してやれ」
人に命令することに慣れた貴族の口調だった。
東風は面倒なことになったと思ったが、前から目をつけていた藍珠を手に入れる絶好の機会を逃すのも惜しく、へらりと愛想笑いを浮かべてこの場をやり過ごそうとした。
「これはお見苦しいところをお見せいたしまして。これはちょっとした痴話喧嘩でして」
その間も藍珠は、東風の腕から抜け出そうと懸命にもがき続けていた。
「おい。我が儘もいい加減にしろ。他人様のまえで恥ずかしいだろう」
あくまで恋人同士のちょっとした喧嘩ということで押し通すつもりらしい。
男は黙ってこちらを見ている。
ここで彼に去られたら、いよいよ助からない。
無理矢理に東風のものにされてしまう。
藍珠は必死に叫んだ。
「お願いです、助けて下さい!」
「お、おい。何言ってるんだよ、おまえ」
「この人とは恋人なんかじゃありません! お願い助けて!」
「いい加減にしろよ、この……」
東風は苛立ったように、手を振り上げた。
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