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(打たれる……!)
思わず目をつぶったが、次の瞬間聞こえてきたのは、
「ぐああっ」
という東風の呻き声だった。
男が、腰に佩いていた太刀を鞘ごと抜いて、その鞘で東風の眉間を打ち付けたのだ。
目にも止まらない速さだった。
東風が眉間を抑えてうずくまった隙に藍珠はその腕のなかから抜け出した。
「痴話喧嘩だか何だか知らぬが、女に助けを求められて知らぬふりをしたら寝覚めが悪いからな」
男は静かな口調でそう言った。
「くそっ、格好つけやがって……」
東風はギラギラとした目で男を睨みつけたが、その時、路地のむこうの方からバラバラと数人の男たちが走ってきた。
「若様! ここにいらっしゃいましたか!」
「お一人でどこかへ行かれては困ります! やっ、この者たちは……」
男たちは長衣の男に駆け寄ると口々に言った。
「チッ……」
東風が舌打ちをして逃げ出す。
「あ、おい!」
駆けつけた男たちの一人が呼び止めるが、長衣の男は
「良い。祭り騒ぎに浮かれた街のごろつきだろう。放っておけ」
と冷たく言った。
藍珠は男たちが集まってくるのを見て、改めて自分があられもない格好にされているのに気がついた。
東風の嘘とはいえ、痴話喧嘩で男と揉めてこのような目にあった女と蔑まれるのも恥ずかしく、藍珠は、
「あ、あの、ありがとうございました!」
と頭を下げるとそのまま、後も見ずに駆けだそうとした。
しかし、さっきまでの恐怖で膝が震えてうまく走れない。
しかも、さっき男にぶつかって倒れた拍子に足首を挫いてしまったみたいだ。
転びそうになるのを、男が駆け寄って支えてくれた。
「大丈夫か?」
言いながら長衣の上に来ていた丈の長い羽織を藍珠の方からかけてくれる。
「は、はい。大丈夫です。申し訳ありません」
「若様、そちらの娘は?」
供の男がいぶかしげに尋ねる。
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