9.後宮の秀女選出

1/2
前へ
/20ページ
次へ

9.後宮の秀女選出

 (こう)は、もともとは遊牧民の部族、(イン)族が、中原を治める(そう)帝国から独立して興った国である。  初代皇帝、青鷹(チンイン)は、曹の将軍だった。  二代、黄鷹(ホアンイン)帝の代に、鴻国として独立し、その後も曹との間で戦いを繰り返しながら、次第に勢力範囲を広げている。  現皇帝、飛鷹は初代から数えて、第七代目の皇帝であった。  その飛鷹には現在、後継ぎとなる皇子がいない。  それを憂えた皇帝の生母、宣皇太后は後宮に新たな妃を入れることを進言した。  新しい妃など、争いの種だと思った飛鷹は気がすすまなかったが、何としても次の皇帝に飛鷹の息子をつけたいと切望している皇太后は聞く耳を持たず、なかば強引に後宮の増員を決めてしまった。  その新しい妃を選ぶ、「秀女選出」が今夜行われるのだ。  ちなみに鴻の後宮は、皇后の下に「四妃」と呼ばれる貴妃、淑妃、徳妃、恵妃がいて、その下に「九嬪」と呼ばれる麗儀、麗容、麗媛、佳儀、佳容、佳媛、慎儀、慎容、慎媛がいる。  その下に貴人、美人、才人、御花、采女、と続くが嬪以下は、すべて「宮女」と呼ばれ、この階級には人数の定めはない。  現在、飛鷹の後宮では皇太后の姪である宣淑妃と、北方遠征で武功を挙げ続けている常勝将軍、江 康勇の妹である江貴妃が勢力を二分していた。  そんなところに新しい妃がぽっと入ってきて下手に皇子でも産もうものなら争いの種になるのは目に見えている。 (まったく母上ときたら、ご自分がさんざん後宮の争いで苦しめられたというのに、平気で姪に同じ苦しみを強いようというんだからな)  宣淑妃は飛鷹には、従姉にあたる。  二つ年上で控え目な性質の彼女に、飛鷹はおだやかな愛情を抱いていた。  二人の間には、三つになる春瑤公主もいる。  このまま宣淑妃が男の子を生んでくれれば、それが一番良いのだが、もともと丈夫な方でない宣淑妃は公主を生んだあと、自分の宮で休養することが多くなり、皇子の誕生はとうぶん見込めそうもないと言われていた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加