4.誓いの首飾り

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「でも、俺は君を、君だけを愛してるんだ。君を手放すことなんて俺には……」 「私もあなたを心から愛してるわ。愛してるからこそ、今一緒に逃げることは出来ないの。そんなことをしたら、私は本当にあなたにとっての凶星になってしまう……」  涼雲は藍珠を抱きしめた。 「凶星なんて二度と言うな。そんなのはでたらめだ。俺にとって君はいつでも輝く幸運の星だった。君だけが俺を照らしてくれる。ただ一つの光だ。藍珠、愛してる。俺には永遠に君だけだ」 「涼雲」  二人は固く抱き合った。  それから長い話をした。  最後には涼雲も、渋々、藍珠の話を受け入れた。  別れ際、涼雲は懐から首飾りを出して藍珠の首にかけてくれた。  それは草原の花マリーチェをかたどった木彫りの素朴なものだった。 「涼雲、これ……」 「本当は正式に求婚するときに渡そうと思っていたんだ」  そう言って涼雲はその場に跪いた。 「藍珠。子供のときからずっと君が好きだった。俺の妻になって欲しい」 「涼雲、それは……」 「分かってる。今すぐには一緒になれないことは。俺や家族のために皇宮に行くという君の気持ちは分かった。でも、俺の気持ちは変わらない。俺が妻として娶りたいのは君だけだ。君以外の誰も妻にする気もないし、愛するのは生涯君だけだ」 「涼雲……」 「この首飾りはその誓いの証だ。婚礼はあげられなくても、俺の妻は君だけだ。受け入れてくれるかい?」    藍珠は胸がいっぱいになって何も言えず、黙って何度も、何度も頷いた。  目から涙が溢れて頬を伝った。  涼雲は優しくそれを拭ってくれた。 「受け入れてくれたのなら今日から君は俺の妻で、俺は君の夫だ。この身は離れ離れになろうとも俺はずっと君を愛し続ける。そしていつか必ず君を迎えに行く」 「迎えに?」 「ああ。この先、鴻国が戦をすることがあれば黄族の兵も援軍として出兵することになる。そうなったら真っ先に志願してそこで武勲をたくさん上げて将軍として取り立てられてやる。褒美を貰えることになったら君を宮中から出して下賜して貰えるように陛下に申し出るよ。そうしたらずっと一緒にいられる。それまで俺を待っていてくれるね?」 「ええ。涼雲。もちろんよ。ずっと待っているわ」  藍珠は涙ながらに涼雲に抱きついた。  涼雲は不安と絶望しか見えなかった藍珠の未来に希望の灯りをともしてくれた。  その希望と誓いの首飾りを胸に、藍珠は生まれ育った故郷を離れ、皇都へと向かうことになった。
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