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「お母さまもお父さまも、皇都では皇帝陛下が私のことを首を長くして待っていて下さるって言ったじゃないの! 最愛の妃として大切にお迎え下さるって」
「それは、いずれそうなるという意味ですよ、翠蓮。あなたならば、かならずや陛下のお心をとらえて並びないご寵愛を得るでしょう。一族の幸運の女神のあなたですもの。きっと、すぐに皇子を授かって、後宮でただ一人の皇后に選ばれるわ」
娘の機嫌をとるように玲氏が猫なで声でいったが、翠蓮の怒りはおさまらなかった。
「嫌よ!品評会の馬や羊みたいに大勢の人の前に並べられて、他の人と比べてあれこれ言われるのなんて絶対に嫌! 私、選考会になんか出ないから!!」
翠蓮は、皇都に用意された宿舎の寝台に身を投げると、子どものように声をあげて泣きじゃくった。
閉口した玲氏は、おろおろと見守っていた侍女たちを睨みつけ、
「何をぼんやりと見ているの! そんな暇があったら翠蓮の気持ちが明るくなるようなものでも探しておいで! 気がきかない者たちね!」
と八つ当たり気味に言った。
部屋を出て、しばらく行くと侍女の一人が首をすくめて言った。
「気持ちが明るくなるもの、って何よ。お菓子? 玩具? 赤ん坊じゃあるまいし、こんな時に何を持っていったらご機嫌がなおるっていうのかしら」
彼女は、玲氏が皇都の実家の伝手でこちらで雇った娘で、黄族の出身ではなかった。
藍珠が、困ったように笑うと彼女はにっこりと笑いかけてきた。
「私は咲梅よ。あなたは?」
「私は藍珠」
「藍珠ね。綺麗な名前ね。これからよろしくね。同じ宮に仕えることになるのだろうから仲良くしましょう」
「ええ、こちらこそ。よろしくね」
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