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「柊も風鈴も、私たちを信頼して雫さまを託して下さった伊蔵さまのお気持ちを無駄にするつもりですか?」
榊に諭すように言われて、風鈴と柊はきまり悪そうに雫を見た。
「柊。伊蔵さまは、雫さまの幸せを心から願っておいででした。それは分かっていますね?」
「当たり前だろ。だからこそ、俺が雫を幸せにしようと……」
「雫さまのお気持ちを無視して無理矢理に娶ったところでお幸せにすることは出来ませんよ」
柊は叱られた子供のように肩を落として、雫の方を見た。
「雫は俺が嫌い?」
「えっ?」
「どうしてもここから出て行きたい? 俺の妻になるのはそんなに嫌?」
そう言う柊の切れ長の目には涙が浮かんでいる。
「き、嫌いとかイヤとか以前に私たち、さっき会ったばっかりでお互いのこと何も知らないと思うんですけど……」
「雫ちゃん! そんなこと言ったら彼女いない歴数百年のその色呆け狐が調子に乗るわよ」
風鈴の言葉に雫がはっとした時にはもう遅かった。
「それは本当かい、雫!」
気がついた時には柊の腕のなかにお姫様抱っこのようにして抱き上げられていた。
「ぎゃっ、な、何!?」
じたばたとする雫を構わず抱きしめて頬ずりする柊。
「それはこれからもっとお互いのことを知り合いたいっていうことだよね?
つまり、それは俺のことが嫌いなわけじゃないってことで、ということはつまり、俺のことが好き、愛してるってことだよね!?」
「何でそうなるんですかっ!」
必死に腕のなかから逃れようとする雫に風鈴が憐れむような眼を向ける。
「ダメよー、雫ちゃん。そのテの男に中途半端に気をもたせるようなこと言ったら。最初から全力で叩き潰すつもりで向き合わなくちゃ」
(だ、だって下手に刺激したら絶対にまずそうな雰囲気だったじゃない!)
雫は柊の顔を思いっきり両手で押しやって少しでも距離を取ろうとしながら必死に言った。
「嫌いじゃないけど好きでもないです。ましてや愛しては絶対にないです。だから下ろして!」
「そんな照れなくてもいいのに」
「照れてないです!」
「柊。いい加減にしないと怒りますよ」
榊が溜息まじりに言ってパンッと手を打った。
気づくと雫は柊の腕のなかから解放されて榊の隣りに立っていた。
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