4.狐に嫁入り?

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ええっと、つまりこれまで会ったこともない、それどころか存在すら知らなかった祖父の水瀬伊蔵は、この世のものならぬ「あやかし」が見える特異な人間だった。  そして祖父は、そのあやかし達が現世──この世で暮らしていくための手助けをしていたと。  その為に幽世(かくりよ)とこの世界が繋がる出入口のあるここに屋敷を立てて……。 「ちょっと待って」  そこまで考えて雫は言った。 「幽世っていうのは、この世ではない人間以外の者たちが住む場所なのよね?」 「ええ。基本的には。けれど人間でも幽世に住んでみえる方はいらっしゃいますよ。現に……」 「例外の話はここではいいわ。私が聞きたいのはその、幽世っていう場所があるのにどうしてわざわざ、そこの風鈴さんとか、柊さんとかはこっちの人間界に住んでいるわけ?  わざわざ祖父に世話されながら、こっちに住まなくても幽世に住めば問題はないんじゃないのかしら?」  雫の質問に答えたのは柳の精の風鈴だった。 「あやかしが皆が皆、幽世に住んでいるわけじゃないわよ。現世生まれで現世育ちのあやかしだっているんだから。例えば私みたいに」  そう言って風鈴は門の方を指さした。 (ああ、そうか。風鈴さんはそこの柳の精だって言ってたっけ?)  確かにこの日本には、古来から火、土、風、水、それから川や池、海や山など自然の営みすべてに神々が宿るという考え方が浸透している。  日本神話に出てくる天照大御神(アマテラスオオミカミ)や、須佐之男命(スサノオノミコト)みたいな有名な神々だけでなく、古くから生えている木、池には不思議な力が宿り、「主」のよう存在がいると信じられていることも少なくない。  なるほど。そう言われてみればこちらの世界に住むあやかしがいるのは分かった。  祖父がそのあやかし達の力になっていたのも分かった。 「分からないのは、どうして私がこのお化け屋敷を受け継いで、しかもそこの狐さんと結婚しなくちゃいけないのかっていうことなんだけど!?」  雫の言葉に、柊がふふんと笑った。 「それは君と僕とが結ばれるのが運命だからだよ」 「だからなんで!?」  先ほどの柊の話を雫は懸命に思い出した。 「もし、わしに娘か孫娘がいたらおまえと添わせてやるのになあ」 「幸せにすると約束してくれるなら喜んで嫁にやる」  そう確かに言っていた。 「あの、柊さん?」 「柊でいいよ。雫。夫婦なんだから」 「夫婦じゃありません。あのですね、祖父は『もし、孫娘がいたら』って言ったんですよね? その言い方から察するにその話をした時、祖父はまだ私っていう孫の存在を知らなかったんじゃ……」
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