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「ああ、それはそうかもねえ」
柊はのんびりと頷いた。
「だとしたら、そんな仮定の話で成り立っている婚約なんてそもそも無効だと思うんですけど?」
「なんで? だって伊蔵は確かに孫娘を僕にくれるって言ったよ」
「それは、もし孫娘がいたらっていう話だったんですよね?」
「うん。でも実際、伊蔵には雫っていう孫娘がいたんじゃないか。だから君は僕の妻なんだよ」
にっこりと微笑む柊は、改めて見ても息を呑むほどの美形だったが雫はとても、うっとりと見惚れる気にはなれなかった。
いくら美形でも今日はじめて会った人といきなり結婚なんてあり得な過ぎる。いや、そもそも彼は「人」ですらないんだった。
(お祖父ちゃんー……なんて約束をしてくれたの)
会ったことのない祖父を恨めしく思いながら、雫は必死にこれからのことを考えた。
狐の妖怪と結婚なんてあり得ない。
地道に働いて将来、自分の店を持つという夢があるのだ。
いや、その夢以前にまずは奨学金を返さなくては。
申し訳ないけどお化け屋敷になんか関わり合っている暇はない。
だが、榊さんはあっさりと言った。
「奨学金の件でしたら、伊蔵さまの遺されたご遺産の方で十分に返済は可能かと思います」
「問題解決。ついでに伊蔵の遺したお金でここを僕と雫のスウィートホームに相応しく改築しようよ。雫はどんな感じが好き? カントリー風? それとも北欧風?」
嬉しそうに言う柊に、風鈴が顔をしかめる。
「ちょっと勘弁してよ。私はこの屋敷のこの古式ゆかしい雰囲気が気に入ってるの。勝手なこと言わないでよね」
「古いなあ。風鈴は。樹齢は俺の寿命よりずっと若いくせに」
「うるさいわね。ここは伊蔵さまが私たち皆のために残してくれた場所なのよ。あんた達夫婦だけの為の屋敷じゃないんですからねっ」
「あのっ、夫婦じゃないですから!」
雫は慌てて割って入った。
(まずい。このままだとなし崩し的に夫婦っていうことにされかねない)
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