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(逃げよう……!)
雫は決意した。
とにかくこの屋敷を出て帰るのだ。
そうして、今後の話は別の場所で榊さんを通してすすめて貰うことにしよう。
このまま、ここにとどまっているのは危険過ぎる気がする。
特にさっきからずっと、クールな顔立ちに似合わない熱い眼差しをこちらに送り続けている狐の妖怪の存在が……!
雫は極力平静を装って立ち上がった。
「あ、あら。もうこんな時間? ずいぶん長居してしまったみたい。今日のところはこれで失礼しますね」
「ダメだよ。帰さない」
柊の返答は容赦のないものだった。
「帰さないって……」
「雫は僕の妻だもの。妻が夫と離れて別の家に帰るなんてそんなのおかしいだろう?」
雫の背筋をたらりと冷や汗が伝って落ちる。
(この人、薄々気づいてたけどもしかして、かなりヤバい……?)
同じあやかしでも風鈴の方は見た目が変わっているだけで中身は普通の女性のようなのだがこの柊は違う。
さっきから微妙に話が噛み合わない。
噛み合わないどころか、最初っから雫の言い分をまったく聞く気がないような気がする。
(だってこの人、最初っからずっと私が自分の妻だってことしか言ってない)
なんだか分からないけどものすごく執着されてしまっているようなのだ。
今だって、ものすごく当然のことを主張しているというような涼しい顔をしているけど、その涼しげな表情が逆に雫のなかの恐怖を煽ってくる。
ここは、あくまで怯まず自分の意見を主張するべきか?
それとも下手に刺激せずにこの場ではそれとなく話を合わせておくべきか?
なんだかどっちを選んでも、それぞれ別の意味で「積む」気がするのは気のせいだろうか。
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