4.狐に嫁入り?

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(でも、その場しのぎだろうが何だろうが、もし私の口から婚約を認めるようなことを言ってしまったら、それこそおしまいな気がする……)  今の時点でも、祖父が戯れに言ったような発言を盾に結婚を迫って一歩も引かない有様の柊に、雫の口から結婚してもいいようなことをわずかでも匂わせたら、それこそ鬼の首をとったように結婚を推し進めようとしてくるのは間違いないと思われた。 「榊さん……!」  雫は藁にもすがる思いでこの場にいる自分以外の唯一の人間である榊の方を見た。 「あのですね。お話はだいたい分かりましたけど、なにぶん私は雇われて働いている身ですし、賃貸で借りているアパートもありますし、今日からこのまま、ここへ住むっていうのは出来ないんですよ。それなりの段階を踏まないと。そのへんのことは同じ人間の榊さんなら分かっていただけますよね?」  必死の懇願は、榊の困ったような顔と柊と風鈴の意外そうな声であっさりと覆された。 「あれ、榊。おまえ言ってなかったの、自分の正体」 「雫ちゃん。榊は私と同じ木の精よ。屋敷の裏手にある泉の側に生えてる榊の木の精霊」 「そんな……」 「申し訳ございません。雫さま」  榊さんがぺこりと頭を下げた。 「私はこの通り、現世の姿が比較的、人間に近いものですから伊蔵さまの秘書というか、執事のようなことをさせていただいておりました。それゆえ、他の者よりは現世にも人間にも詳しいのですが……風鈴の言う通り、あやかしでございます」  くらりと眩暈がする。  でも、ここでまた気絶なんかしようものならそれこそ狐の花嫁まっしぐらだ。しっかりしなくちゃ! 自分の身は自分で守るんだ。  今までもそうやってきたんだから!  雫は必死に自分を鼓舞しながら、こちらを見ている三人のあやかしに向き直った。
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