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5.婚約破棄を希望します!
「とにかく私、一度帰ります。今後のことはまた日を改めてお話ししましょう」
「なんで? 帰さないよ。雫の家はここなんだから」
にこやかに言う柊の方を極力見ないようにして雫は立ち上がった。
(この人に付き合ってたら一生かかっても話が進まないわ)
そう思って廊下の方へ歩きかけたその時。
ピシャンッ!!
ともの凄い勢いで、目の前の襖が閉まった。
「ひっ」
思わず、一歩後ずさる雫の後ろから柊の
「帰さないって言っただろう?」
という声が聞こえてくる。
まったく怒ってはいない優しげな声音なのが余計に怖い。振り向けない。
襖に手をかけて引こうとした雫は泣きそうになった。
(開かない……)
鍵もつっかい棒も何もかかっていない襖が、まるで壁になってしまったようにビクともしない。
でも、ここは和室のお座敷だ。ドアが一か所しかない洋室と違って出口は四方にある。
そう思って踵を返しかけた途端に、部屋の四方の襖と障子戸が全部ピシャーンと閉まった。
慌てて駆け寄るがすでに遅く、どこの戸も塗り固められたように開かない。
(なんなのよ、このホラー展開~)
涙ぐみながら必死に襖の一枚と格闘していると、風鈴が呆れたように言った。
「やめなさいよ、柊。雫ちゃん怖がってるじゃない。そんなんだからあんた女に逃げられるのよ」
「う、うるさい! 別に逃げられてなんかない!」
「逃げられてるじゃない。氷女の沙雪に、雨女の結雨、一番最近のは椿の精の紅華だっけ? みーんなあんたのその重たすぎる愛情表現に恐れをなして逃げてったのよ。同じあやかしでも怖がるレベルの重たさの愛に人間の雫ちゃんが耐えられるはずないでしょう? 少しは考えなさいよ」
そう言って風鈴がさっと手を振ると、最初に閉じられた廊下に面した襖がスパーンと開いた。
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