5.婚約破棄を希望します!

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「あっ、風鈴。てめえ、何するんだよ!」  柊が怒鳴ると同時にまた襖がピシャッと閉まる。 「何するじゃないわよ。あんたいくら自分がモテないからって、人間の娘を無理矢理攫って嫁にするなんて、それじゃまるっきり悪霊じゃないの。仙狐としてのプライドってものはないの?」  風鈴が言い返すと、また襖が開く。 「誰がモテないって? 俺は別にモテないから今まで独り身だったわけじゃない! 真に愛する人と出逢うまで待ってただけだ。そして今こうして雫と出逢った。邪魔するな!」 「何が真に愛する人よ。相手の意見を無視してよく言うわ!」 「無視してない。雫は僕を愛してる!」 「愛してないわよ、怖がってるじゃない!!」 「それはおまえが余計なことして邪魔するからだろ!」 「邪魔してるのはあんたでしょ! いい加減現実みなさいよっ!!」 「おまえこそ、自分が独り身だからって人の恋路を邪魔するなよ。年増の嫉妬は見苦しいぞ!」 「誰があんたに嫉妬するのよ! 私は伊蔵さま一筋なんだから! あんたみたいな色狂いのスケベ狐と一緒にしないでよねっ」 「何だと!!」    言い争う二人の声に合わせて襖がもの凄い勢いで開いたり閉まったりしている。 「雫ちゃん! 今のうちに出て。これ以上ここにいたらこの色魔狐に何されるか分からないわよ!」 「誰が色魔だよ! 雫、ちょっと待っててくれ。今すぐ、この化け柳を黙らせて君のために用意した新婚の部屋に案内するから!」    今のうちに出ろと言われても、こんな速さで開閉している襖に突っ込んだりしたら挟まれて怪我するのが関の山だ。  困り果てた雫を見て榊がはあっと溜息をついた。 「二人ともいい加減にしなさい……!」  静かな声だったが、榊がそう言った途端、開閉していた襖は音もなく霧のようになって消え失せた。
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