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(とりあえず、記念に写真とっておこうっと)
門の横の柳の方にむかってスマホのカメラを構えた雫は思わず、悲鳴をあげた。
「きゃっ!!」
柳の下に、白い着物の上に藍色の長い羽織を羽織った男が立っていたからだ。
(え、え、えっ、何? さっきまでは誰もいなかったよね)
雫は慌ててスマホを下ろした。
男は、年の頃は雫より少し上……二十代半ばくらいだろうか。
黒髪に白い肌の、ぞくっとするような美青年で、切れ長で黒目がちの目でじっとこちらを見るとちょっと小首を傾げた。
「雫?」
「えっ」
思いがけず名を呼ばれて雫は固まった。
(どうして私の名前……)
青年は雫の様子に構わずに、こちらにやって来た。
「雫だろう? 水瀬 雫。伊蔵の孫娘の」
伊蔵というのが祖父の名前だと思い当たるまでに少し時間がかかった。
自分と祖父の名を知っているということは、この人は祖父の知り合いなのだろうか。
たとえば、祖父が雇っているこの屋敷の管理人さんだとか。
それにしては、いきなり名前を呼び捨ててきたり、祖父のことも呼び捨てだったり違和感が半端ないのだけれど。
それにこの青年の醸し出す雰囲気はなんだろう。
側にいるだけで、なんとなくひんやりとするような……ざわざわと肌が粟立つようなこの感覚は。
「あの、あなたは……」
無意識に後ずさりながら尋ねたが、青年はじりじりと雫が下がった距離をあっという間に詰めるとにっこりと微笑んだ。
「ああ。そうだね。自己紹介がまだだった。僕は柊。君の夫だよ」
そう言っていきなり雫を抱きしめた。
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