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(落ちる──!!)
すうっと背筋が寒くなるような感覚。
けれど、それに続く衝撃はいつまでも来ない。
その時、雫はふわっと自分の体が浮かび上がるのを感じた。
(え……?)
見れば、一面真っ白な視界のなかに青白い炎がちらちらと浮かんでいる。
(何、これ……夢? 私、石段から落ちて気を失ったの?)
やがて霧のなかから一つの人影が浮かび上がる。
黒髪に白い着物、藍色の長羽織。
(ひ……っ)
雫は思わず顔を引きつらせた。
(さ、さっきの変質者……!)
怯える雫に構わず、彼女の体はふわふわと宙を飛び、やがて青年の真上まで来ると、ふいに浮力を失ったようにすとんと落ちて、彼の腕のなかにおさまった。
「おかえり、雫。危ないだろう。急に走ったりしたら」
彼はにっこりと笑って雫の顔を覗き込んだ。
「雫は意外とお転婆さんなんだなあ」
そう言う彼の瞳が青く光っていることに気がついて雫は息を呑んだ。
さっきまでは確かに髪と同じ、黒い瞳だったはずなのに。
(何なの……お願い。夢ならさめて……!)
祈るような気持ちで思った瞬間、視界をゆらりと白いものが横切った。
「え?」
ゆらゆらと揺れるふさふさとした柔らかそうなもの。
それが目の前の青年の尻尾だということに気が付いた雫は、今度こそ声もなく気を失った。
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