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(これも夢……それにしては妙にリアルな……)
その時、
「え、雫の目が覚めたって?」
廊下の奥で声がして、パタパタとこちらへ駆けてくる足音がした。
「雫! 大丈夫かい?」
「きゃあああ!」
部屋に入ってきた男を見て、雫は思わず悲鳴をあげた。
「ど、どうしたんだい。雫」
「さ、さっきの痴漢……!」
雫は思わず後ずさり、庇うように近寄ってきてくれた若木色の髪の女性にしがみついた。
「痴漢!? どこに」
「あなたよ、あなた」
女性が呆れたように言った。
「まったく初対面でいきなり抱きつくなんて信じられないわね。しかも尻尾も見せちゃうし。驚くに決まってるでしょ。雫さんは普通の人間なのよ」
聞き捨てならないことを聞いたような気がする。
普通の人間、ということはこの人たちは普通の人間ではないということなのだろうか。
(いや、見るからに普通じゃないけど)
女の人は、ふうっと溜息をついて私を見た。
「色々誤魔化しても無理があるから、本当のことをそのまま言うわね。まずは自己紹介から。私は風鈴。柳の木の精よ。門のところに立ってたでしょう? あの木の精霊」
「精、霊……」
「それでこっちは柊。この辺に棲みついてた狐のなれの果て」
「そんな言い方ないだろう。風鈴」
柊と呼ばれた黒髪の青年が不服げに言う。
「ちゃんと仙狐と言って欲しいな。千年生きて神通力を持つようになった狐の精」
雫はごくりと息を呑んだ。
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