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「あの……これってドッキリか何かで……」
柊と風鈴は顔を見合わせた。
「まあ、そう思うわよね、普通」
「榊のやつ、何も話してなかったのかよ」
「榊さん……?」
(そうだ。今日はそもそも榊さんと一緒にここを見に来る約束だったんだ……!)
雫は立ち上がると、部屋の隅においてあった自分のバッグを引き寄せた。
「あれ、雫。どうしたの?」
「あの、私、榊さんと一緒にまた来ます。今日のところはこれで……」
「え、ちょっと……」
そのまま、有無をいわせず立ち去ろうとしたのだが、玄関の方向が分からない。
うろうろしていると、
「いやあ。遅くなりました。お待たせしてしまって」
と榊さんが入ってきた。
初めて会った時と同じような和服姿だった。
あの時は、変わった人だなと思ったが、この変わってるどころではないメンバーだらけの屋敷の中で会うと地獄に仏とかこのことかと思える。
「さ、榊さん」
「ああ。雫さま。先に中へ入られていたのですね。気がつかずに外で少し待ってしまいましたよ」
「すみません。……っていや、そんなことよりここの家っていったい」
「もう誰かに会いましたかね?」
「あ、会ったも何も……あの人たちは誰なんですかっ」
「住人ですよ。ここの」
榊さんはこともなげに言った。
「ほ、他の人が住んでるんですか? そんなの聞いてないっ」
「いやあ、厳密にいうと他の『人』ではないんですけどね」
榊さんは困ったように頭をかいた。
「説明するより、実際に見て貰った方が早いと思って今日ここへ来ていただいたのですが」
「それにしたって限度があるわよ。少しくらい説明しておいてくれないと」
座敷から風鈴さんが顔を出して、文句を言う。
「それでなくても柊がこの間から先走って大変なのに。さっきも初っ端から驚かせて雫ちゃんを気絶させちゃったのよ」
「え、気絶? それはそれは」
榊さんは恐縮したように頭を下げた。
「い、いえ。謝ってくれなくてもいいですから、それより説明して下さい。どういうことなんですか?」
「何だよ、榊。じゃあ僕と雫の結婚のことについてもまだ何も言ってくれてないのかよ」
「柊。その話はまたおいおいにと言ったでしょう」
榊さんが溜息をついて言う。
「いやっ、おいおいにってどういうことなんですか? なんでこの人と私が結婚することになってるんですか!?」
雫に詰め寄られて榊は、仕方なく話し始めた。
それによると、祖父はある水神を祭る神社の宮司をしていて、なんというか「見える」人だったのだという。
そのため、祖父のまわりには、いつの頃からかあやかしと呼ばれる不思議なものたちが集まってくるようになってしまったらしいのだ。
「この千年で人間界は随分と変わりました。その変化に適応しきれずに困っているあやかし達を伊蔵さまは見捨てておかれず、色々とお世話をなさっていたのです。そうして、現世と彼らの住まう幽界の入り口が繋がっているこの土地に屋敷を構え、彼らと一緒に暮らしてきたのです」
「成程……って、いや、それと私と何の関係が。そもそも結婚ってどういうことですか?」
「ああ。それに関しては聞き流していただいて結構ですよ。柊が一人で言っているだけですから」
「いいや、違う!」
柊がきっぱりと言った。
「伊蔵は確かに言ってくれた。『もし、わしに娘か孫娘でもいたら、おまえと添わせてやるのになあ』って。『幸せにすると約束してくれるなら喜んで嫁にやる』ってね!」
得意げに言う柊を見ながら、私は混乱だらけの頭の中を必死に整理しようとした。
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