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折りたたみ傘
「天気予報では晴れって言ってたのになぁ」
昼から降り出した雨は帰る時間になるともっと強くなっていた。てっきりやむと思ってたんだけど、どうやら違ったっぽい。
私は折りたたみ傘を持って来ていたからよかった。家は近いけど、教科書は濡らしたくないしね。
傘を忘れた男子達が傘を借りに職員室に向かって走っている。傘は早い者勝ちだから借りれないと大変なのだろう。折りたたみ傘くらい学校に置いておけばいいのに。そう思いながら私は彼らを眺めていた。
帰りの支度を私はゆっくりやった。今日は、いつも一緒にいる友達の葵ちゃんが委員会で一人なのだ。帰るとき一人で困ることとかは無いけど、どこか寂しかった。それに、ゆっくり支度をすれば葵ちゃんの委員会が終わるかもだし。
帰る支度を終わらせ下駄箱に行くと、さっき傘を借りに走っていた男子達が傘を持って喋ってた。
男子達がいなくなるのを待ってから、下駄箱から靴を出し履いた。
外に出ると傘を持たずに立っている女の子がいた。よくよく見るとクラスメイトの静音ちゃんだった。いつも本を読んでる子で、あまり人と話しているのを見たことがないような気がする。話してみたいって思ってるんだけど話す機会がないんだよね。
あれ? もしかして傘を持ってないのかな?
私は思いきって話しかけてみることにした。
「ねぇ、静音ちゃん」
「はっはいっ」
静音ちゃんは明らかに緊張していた。
「もしかして傘持ってなかったりする?」
私がそう聞くと、静音ちゃんは無言で何度もうなずいた。
「ねぇ、もしよかったらこれ使って」
私は手に持っていた折りたたみ傘を差し出した。
「えっ、いいんですか?」
「うん、使って」
「えーと、春香さんですよね。ありがとうございます。綺麗にして返しますね」
「うん、わかった」
静音ちゃんは、お辞儀をしたあと帰っていった。
私の家は走れば数分でつくし、いっか。よし、走ろう。そう思い、動こうとしたとき後ろから声が聞こえた。
「ヤッホー、春香。まだ帰って無かったんだ。……あれ? 傘はー?」
「貸しちゃった」
「そっかー。じゃあ、うちの傘に入ってくー?」
「えっ、葵ちゃん傘持って来てるの?」
「持ち帰り忘れてた傘があるんだよねー」
そう言うと、葵ちゃんは傘立てから傘を持って来た。
「入って、入ってー」
葵ちゃんの傘に私は入った。普段は私が貸す方だから不思議な感じだ。
葵ちゃんに家まで送ってもらったおかげで、私は左側が少し濡れるだけですんだ。
「葵ちゃん、ありがと。じゃあね」
「じゃーーねーーー」
葵ちゃんに手をふったあと、私は家の中に入った。
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