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5年目冬
嫌われたくないから話を先伸ばしにしてた。
それでも言ってやれるのは俺しかいない。
そう思って、緊張する胸を押さえてテレビを眺めるクロを呼び掛けた。
「なぁ、クロよ。」
「……。」
何かを察したクロが怯えた表情で俺を見た。
別に今は怒りたいとか傷つけたいとかそう言うのではないのだ。
「内職、進んでないんだって?浅実に聞いたぞ。」
「……。」
ごめんなさい、ごめんなさい…精一杯なクロの恐怖がこちらにまで伝わる。
その姿を見てると、駄目なのはクロの方なのだが…こっちが悪者な気がして。強く叱る気も削がれてしまう。
「出来ないならちゃんとアピールしてくれ。最初に言っただろう?お金なんて必要ない、俺が責任持って幸せにするし、何か欲しいなら俺に相談してくれ。」
「……っ、……。」
苦しそうにボロボロ雫を溢すクロ。
その背中をそっと抱きしめた。
「まだ早かったんだ、無理させてごめんな。ちゃんと判断してやれなかった俺も悪いんだ。」
「……。」
「浅実には俺から言っとくよ。苦しんで働かなくてもいいんだ。お前が立派なことは俺が分かってるよ。」
…そしてクロは内職を辞めた。
少し残念だが…これで良かったんだ。
クロのためにそう思うことにした。
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