6年目春

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6年目春

窓を開ければ春風が心地いい。 実は夏も嫌いだが冬も嫌いだ。 陽気な春の木漏れ日が、春の匂いが心を弾ませてくれる。 柔らかな風でなびくカーテンから迷い蝶がヒラヒラ。クロにとまる。紅い蝶なんて、珍しい。 「ほらほらクロ、見なよ。こんな綺麗な蝶だ。美しいね。名前はなんだろう?」 「……。」 物言わぬ少年は静かに上を向いている。 コミュニケーションが難しいから何を考えているか分からない。だから蝶も寄ってくるのだろうか?そっと蝶に手を伸ばす。 驚くことに蝶はどこにも逃げない。 小さい頃、大人が指に蝶をとまらせる姿にずっと憧れてた。あの時目指した大人に俺も少し、近づけたと言うことだろうか? 「ふふ、可愛いなぁ…可愛い。」 優しく優しく、壊さないように愛でる。 たまにはこんな穏やかな日も悪くない。
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