12人が本棚に入れています
本棚に追加
6年目秋
待ち合わせの喫茶店。
今日は、少し緊張してる。
珈琲の波が微かに揺れていた。
言わなくちゃ、いけない…俺が言わないと。
それは誰でもない…クロのためだ。
俺が守ってやらないと。
カランカラン
「やっはろー♪」
ご機嫌な様子の浅実が入店する。
いつもならマスター共々笑顔で迎え入れるが今日は俺だけ口を横に引き結ぶ。
「なに?こわい顔してるー。」
こっちは真剣と言うのにまだ笑うか。
いつもの席に着くや否や、注文も遮り単刀直入に聞いた。
「…お前、クロを苛めてるらしいな。」
「え?」
親しいと思ってたのに、仲良しだと安心してたのに…!仕事から帰ってきて、俺の知らない痣を見て激しい怒りを感じて呼び出したのだ。浅実の顔面が蒼白する。
「あ、あれは…その、お遊びの延長だよ!決して怪我させようとかそんなつもりじゃ…」
ガタン!
「クロは…クロは!話せないんだぞ!無抵抗で純粋な少年をいたぶって楽しいか!説明出来ないあの子を傷つけるのが幸せか!!」
「お、お客さまたち…」
マスターが制するのも聞かず胸ぐらを掴みあげる。長い髪を細かく揺らし、カタカタ震える浅実。恐怖で動かない瞳には涙がたっぷり溜まってた。
「ごめん…ごめんなさい。ちょっと嫉妬しただけだよ。君とずっと仲良くしてるから…意地悪したくなったんだ。」
「俺は仏じゃない…だから三度も許さんぞ。次に俺の目の届かないところでひどいことしたら…縁を切る。」
「そ、それだけは許して!ごめんなさい、ごめんなさい…!何でもするから!」
こいつもしかして…俺のことが好きなのか?
それなら慣れてる。操るのは容易い。
怒りが萎え、胸を掴む手を下ろした。
「クロは…優しい子だ。繊細なんだ。…いいな?二度目はないぞ?」
「分かった…分かった、言う通りにする。」
泣き笑いして何度も頷く浅実。
…クロのことを守れたと思うと胸がスッとした。
最初のコメントを投稿しよう!