1年目春

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行きつけの喫茶店。木造建築が洒落てる。 人気はあまりない。 お蔭でカウンターに肘をついて煩く珈琲を 啜っても誰も咳払いしない。 マスターとは顔馴染みになってから少し喋るようになった。銀髪銀髭の洒落た紳士だ。 「…それで?男の子を拾ったって言ってましたな。」 「言った。」 「名前は?身元は?どんな顔してます?」 「知らない。」 「知らないって…そんな訳ないでしょう? 口が聞けないってことなら別ですが。」 「口が聞けないみたいだ。」 「あらま…」 マスターは軽く額を押さえて頭を下げる。 その行為の意味がなんなのか未だに分かってない。ただ時々やってることしか知らない。 「出会った時から傷だらけだった。」 「それはお可哀想に。」 「歳は12くらい。痩せてるからあまり分かんないけどそんな感じ。」 「私の息子もそれくらいですな。可愛い頃でしょう。」 「うん、可愛い。」 痩せ細った肢体。女のように長い茶髪。 生気のない緑の瞳が生きる瞬間が心地よい。 白い肌に残る鈍い紫を丁寧に手当てしてやると人懐こくすり寄って来る。 仕事の嫌なことが全部忘れられる。 「ご馳走さま。」 「おや、いつもより早いお帰りですな。買い出しですか?」 「うん。お腹空かせてるだろうから。」 カランカランと鈴を鳴らし、店を出た。
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