12人が本棚に入れています
本棚に追加
8年目冬
部下を従えるのは、気持ちいい。
自分に責任感を感じる、オトナになった気分。会社サイコー。
まあいくら偉い課長になったからって、珈琲を飲むのはいつものボロい喫茶店だ。
なんだか今日は珈琲が美味い気がする。
客のいないカウンターでマスターと語っていたらカランコロンと扉が開いた。
その瞬間だけは腹の下を逆撫でされたような冷えた感覚を覚えた。
定位置に腰掛けたのは浅実だった。
しかし俺の知ってる浅実ではない。
以前はもっと綺麗な奴だった。
今は…髪を振り乱し、病人の様相だ。
落ち窪んだ瞳で俺の方をジッと見つめた。
「…久しぶりだねぇえ…。覚えてる?浅実だよぉお…?」
地獄から囁かれるような薄気味悪い声。
出来れば課長としては関わりたくないが、オトナとして対応することを努めた。偽の笑顔を作る。
「覚えてるよ、久しぶり。」
「ふすっ、ふす…ふすすす…」
口にかかった髪が揺れて変な笑い方。でも笑っていいシチュエーションかも分からない。
「どぉ…?最近…クロくん、元気ぃい…?」
「…ご心配なく、今はピンピンしてるよ。」
護りたい一心で少し強めに対応して釘を刺す。友人に戻るのは構わないがクロを傷つけるだけは許せない。
「そっかぁ…元気かぁ…元気なんだねぇ…」
ブツブツと同じ言葉を繰り返し、マスターに注文したドリンクを飲む前にフラフラと帰ってしまう。急に暖かい感じがした。浅実が居たことで寒気がしていたのだろう。あいつは幽霊なのか??
「ごちそうさま。」
家が心配になってきたので早めに帰宅した。
最初のコメントを投稿しよう!