8年目冬

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8年目冬

部下を従えるのは、気持ちいい。 自分に責任感を感じる、オトナになった気分。会社サイコー。 まあいくら偉い課長になったからって、珈琲を飲むのはいつものボロい喫茶店だ。 なんだか今日は珈琲が美味い気がする。 客のいないカウンターでマスターと語っていたらカランコロンと扉が開いた。 その瞬間だけは腹の下を逆撫でされたような冷えた感覚を覚えた。 定位置に腰掛けたのは浅実だった。 しかし俺の知ってる浅実ではない。 以前はもっと綺麗な奴だった。 今は…髪を振り乱し、病人の様相だ。 落ち窪んだ瞳で俺の方をジッと見つめた。 「…久しぶりだねぇえ…。覚えてる?浅実だよぉお…?」 地獄から囁かれるような薄気味悪い声。 出来れば課長としては関わりたくないが、オトナとして対応することを努めた。偽の笑顔を作る。 「覚えてるよ、久しぶり。」 「ふすっ、ふす…ふすすす…」 口にかかった髪が揺れて変な笑い方。でも笑っていいシチュエーションかも分からない。 「どぉ…?最近…クロくん、元気ぃい…?」 「…ご心配なく、今はピンピンしてるよ。」 護りたい一心で少し強めに対応して釘を刺す。友人に戻るのは構わないがクロを傷つけるだけは許せない。 「そっかぁ…元気かぁ…元気なんだねぇ…」 ブツブツと同じ言葉を繰り返し、マスターに注文したドリンクを飲む前にフラフラと帰ってしまう。急に暖かい感じがした。浅実が居たことで寒気がしていたのだろう。あいつは幽霊なのか?? 「ごちそうさま。」 家が心配になってきたので早めに帰宅した。
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