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9年目夏
「いてて…」
「ダイジョブ?」
「うん、まあ平気かな。」
左手の切り傷を隠した包帯を撫でる。
それをヤナギが不安そうに尋ねた。
これは…クロを庇って出来た傷だ。
そう…またクロは、包丁を握った。
それを止めようとしてカスッた傷がほんのり熱い。クロが傷つかなくて本当に良かった。
それだけは自分を褒めてやりたい。
しかしそれと同時に俺の愛が足りないのかも知れない、と自己嫌悪に陥る。
「なぁヤナギ…クロはどうして死にたがるんだ?」
ヤナギは巨体で小さく首を横に傾げた。
「Oh…ワかりマセん。」
「だよな…俺も長らく分かってないんだよ。どんな形でも生きてた方が楽しいよなぁ?」
「ソの通りデス!me too!」
無理やり解釈しようとしたがそもそも、クロは拾い子だ。幼い頃のトラウマに苦しんで衝動的な感情が発生しやすいのかも知れない。
それなら原因を理解することをよりもクロの気持ちに寄り添ってやった方が落ち着くのかも知れない。出会って9年目にしてようやく気づいた。俺もオトナになったなぁ…。
自分の成長がなんだかむず痒い。左手を愛おしく擦った。
「それじゃヤナギ、クロの手当ても頼む。」
「OK♪」
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