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 四月。  俺がGL(グループリーダー)を務めるグループ配下に、新しい派遣社員がやってきた。  前の派遣社員が俺より一つ二つ若いくらいだったのが、二十歳を越えたばかりの若い女性になったのだから、従業員達は皆色めき立った。  白いアンサンブルに、ふわっとしたパステル調の花柄のスカート。歩くたびに肩のあたりで揺れる巻き髪。  その存在感は、蛍光灯をもう一本余計に設置したようだった。 「佐竹めぐみと申します。どうぞよろしくお願いします」    緊張のせいか硬い顔をして頭を下げる仕草も初々しい。  以前はフリーターをしてたが、それよりは割りのいい派遣社員として働くことにしたそうだ。    だが。  大学にも行っておらず、派遣会社の研修を受けただけ、というのは、本当に使えない。  せっかく設定してあるExcelの式を壊したり、Wordの書式スタイルさえ守れず、何度も何度もやり直しをさせられている。  今まで来てくれていたどんな派遣社員よりも仕事を覚えるのが遅かった。  唯一の美点は、従順である事だろう。  プリンターの紙の供給や、ゴミ処理、給湯室の掃除、電話応対など、それまでの派遣は嫌がった雑事も、彼女は「そのくらいしかお役に立てませんから」と、笑顔で黙々とこなしてくれる。  そういう意味では、同じ仕事をしているもう一人の派遣社員、緒方さんよりも使い勝手は良かった。      その日は、他社での打ち合わせが長引き、十九時過ぎに社に戻った。  不思議なことにまだ電気が付いている。   「今日中に、この仕事を終わらせなさいって緒方さんに言われてて。でも、パソコンが固まっちゃって。もう、どうしていいか……」  そこにいた佐竹さんは、泣きそうな顔で走り寄ってきた。 「俺もそんな詳しくないけど。Excelが固まっただけだよね。  タスクマネージャーを起動して……。  ほら、ここに応答不可って出てるだろう?  俺はこういう時は、終了させて、再度起動してる」  操作して、再度立ち上げてやると彼女は目を輝かせて喜んだ。 「ありがとうございます! これで、ようやく帰れます」 大した事をしていないのに、潤んだ瞳で何度も何度も頭を下げられては、照れるしかない。  日報を書き終え、退社の支度をすると、社員カードをシステムに通さずに帰ろうとする彼女が目に入った。 「佐竹さん、退社登録しないと」 「あ、……。えっと……」 「まさか、サービス残業するつもり?」 「……。私のミスなので」 「ダメだよ。そんなの。ちゃんと時間つけて」 「でも……、緒方さんに叱られます。定時内でやり切るように言われていたのに……」 「残業は残業。何かあったら、俺から彼女に言うから。いいね。絶対にそういう事はしない」 「はい」   「あ、GL」 「何?」 「ありがとうございました。本当に、助かりました」  眩しいほどの笑顔に俺はどんな表情をしていいかわからず、顔を逸らして声を掛けた。 「お疲れ様」 「お疲れ様でした」  甘ったるい、甲高い声が脳の中を快くくすぐって春風のようにふわっと通り抜けていった。
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