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真一文字に結ばれていた、常夜の薄い唇が動いた。まつげがわずかに震える。
目を開き、ゆっくりと常夜が起き上がる。
それだけで部屋の空気は、夜気が入り込んだかのように涼しくなった。
常夜は夜の色の黒髪をしており、その白い顔は切れ長の目を持つ美貌だ。背丈も高く、細身ながらも均整の取れた身体付きをしている。涼しげな美貌であるとともに、どこにいても剣呑な獣の如き存在感を放って、人目を惹く。常夜の外見はそんなところだ。月彦はその美貌を確認する度に、目が覚めるような思いとなる。
以前、月彦が常夜を高校まで迎えに行ったとき、通りかかった他の生徒が「抜身みたいなおっかない奴」と遠巻きから評していたこともあった。どういうことなのかと後で当人に聞いてみたら、近隣校の不良のボスに喧嘩を売られ打ち負かした、とのことだ。
月彦はそんな常夜に臆したりすることはない。友人の気軽さで接している。
「はい、今日の夕飯」
手にしていたコンビニ袋を差し出す。行きがけに買ってきたのだ。
「なんだ、おせっかいな奴だな」
「君は平然と食事を抜くからね」
「俺は最近あまり食欲がないんだよ」
消極的に言いつつも常夜は中身を探って、割り箸を割った。
「ちゃんとテーブルで食べな」
「わかったよ」
常夜は弁当を持って渋々と、部屋の真ん中に据えられたテーブルに移動する。月彦は向かい合わせになって胡座をかいた。
テーブルとベッドと作り付けのクローゼット以外、何もない部屋だ。それを見回す度に月彦は、友人の生活が心配にもなるのだ。
食べている常夜に、月彦は頃合いを見て切り出した。
「ここに来る途中、月見橋の河川敷に警察が出動してた。野次馬も群がってたよ」
常夜の箸の動きが止まり、目線をこちらに合わせてくる。
「野次馬から訊いてみたんだけど……また例の人狼騒ぎだよ」
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