しあわせ

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 再びリビングに戻り、食事を開始する。  肉も、野菜も、どれもとてつもなく美味しかった。  マキはいつもこんなのを食べているのだろうか。 「空くんは、何人家族?」  奏さんの質問に、マキの顔がこわばる。  何かを言おうとするマキを制して、僕は答える。 「三人です。父と母と僕。まぁ、母は僕が小3の時に出て行ったけど」  奏さんの反応は、思っていたものと違った。  たいていの人は、同情してくるものだけど、奏さんは軽くうなずくだけだった。 「そう。じゃあ、今はお父様と暮らしているのね。お父様はどんな方?」  僕は少し驚いた。  まぁ、奏さんがだいぶおおらかな人だってこと……簡単に言ってしまえば変人だってことは気付いていたけど。  でも、同情されるより僕にとってはその方がよかった。 「うーん、基本家にいないんでわかんないです。でも、その方が楽かな。僕はあいつの顔なんて見たく無いし」  奏さんは「そう」とうなずき、微笑んだ。  不思議な人だ。 「真希とは何で知り合ったの?」 「ちょ……」  先ほどからそわそわしていたマキが慌てた様に声を出した。  マキはきっと、これ以上僕に関して僕が話すのをみたくないのだろう。  僕は別に話してもよかったのだけれど、マキがあまりにも心配そうな表情をするので、やめておくことにした。 「すみません、それは秘密です。いつか話します」  僕が笑うと、奏さんは子供のように頬を膨らませた。 「残念だわ……」  顔が赤いし、だいぶ酔っているのかもしれない。  赤ワインはもう、半分ほどなくなっている。  赤い顔の奏さんと、ほっとした顔のマキ。  大事な人が、マキと会ってどんどん増えていく。  ちょっと前の僕からしたら、考えられないほど幸せだ。
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