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テーブルの上の食べ物もなくなり、僕はココア、マキはコーヒー、奏さんは白ワインを飲みながら、だらだらと話す。
「空くん、知ってる?真希、中学の時彼女いたのよ」
真っ赤な顔の奏さんが僕に問うてくる。
驚いたことにありえないほどの量のお酒を飲んだにもかかわらず、奏さんは依然として取り乱したりはしなかった。ただ、雄弁になりつつあったけど。
「はい、まぁ、なんとなくは」
初めて会った時にそんなことを言っていた気がする。
「あ、そう。知ってたの。えっと、亜里沙ちゃんだったかしら?」
奏さんは不機嫌そうにしているマキに話を振った。
「……そうだけど」
明らかに機嫌が悪い。
しかし奏さんは気付いているのかいないのか……おそらく前者ではあるが、構わず続ける。
「あの子もいい子だったわね、真希のことが大好きで仕方がないって感じで……。なんで別れたんだったかしら?」
マキはちらっと僕を見た。
あぁ、そういうことか。
マキは僕が気にしてしまっているのではないかと心配していたのか。
なんだよ、可愛いな!
「……覚えてない。もういいだろ、その話は」
マキはそういうとコーヒーを飲み干した。
奏さんは唇を尖らせ不満そうだったが、大人しく話題を変えた。
「はぁぁ……もうこんな時間なのね……。なんだか、甘いものが食べたいわ……。ケーキとか」
「ないだろ」
「買って来ればよかったわ……」
残念そうに呻く奏さんに、僕は言った。
「あ、僕が何か作りましょうか?」
奏さんは即座にうれしそうな顔をした。
酔うと感情が豊かになるタイプなのだろうか。
「いいの?お願いするわ。冷蔵庫のもの、何でも使っていいから」
僕は立ち上がり、キッチンへと向かった。
「先輩、手伝いましょうか?」
マキが立ち上がりかけながら言ってくれるが、僕はそれを断る。
せっかく奏さんが日本に帰ってきたのだ。
親子水入らずの時間にしてあげたい。
僕なら十分すぎるほどに幸せを分けてもらったのだから。
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