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冷蔵庫の中を物色する。
びっくりするほど大きな冷蔵庫なのに、ほとんど何も入っていない。
どうにかして漁りまくり、中から牛乳、卵、バターを取り出す。
キッチンから行ける地下に(本当にここは日本にある家だろうか?)おりて、奏さんがフランスから買ってきたというフランスパン、ほんの少しだけ残っていた蜂蜜(外国製っぽい)を持ってくる。
バットに溶いた卵、牛乳、蜂蜜を混ぜ、スライスしたフランスパンを浸す。
フライパンにバターをたっぷりと引き、パンを焼く。
あぁ、最高。
甘くて香ばしいいい匂いだ。
甘党の僕にはたまらない。
三つのお皿に盛り着け、そのうち二つに蜂蜜をかける。
蜂蜜ナシは甘いものが苦手なマキ用。
フォーク、ナイフとともにテーブルへ運ぶと、奏さんが歓声を上げた。
「すごい、美味しそうだわ。フレンチトースト?」
「はい、そんなにうまくできてないかもですけど……」
奏さんは外国のホテルとかできっともっと美味しいものを食べているはずだ。
「マキも、ちょっと甘いから、嫌だったら残していいからね?」
甘さは控えた方だが、マキにはそれでもきついかも知れない。
しかしマキは首を横に振った。
「いや、絶対食べます。残しません」
何をそんなにむきになっているのだろうか……。
僕が席に戻ると、奏さんが嬉しそうに言った。
「いただきます」
ナイフで上品に切り、一口食べる。
大丈夫かな、本当に。僕的には完璧な焼け具合だが、奏さんの舌は肥えているはずだ。
「んん~美味しいわ、空くん」
本当に美味しそうに奏さんは言ってくれる。
「美味しいです、先輩」
甘いものが苦手なはずのマキも、ばくばく食べている。
思えば、自分が作ったものを他人が食べるのは初めてかもしれない。
人と食べる食事。
人に食べてもらって、美味しいといわれること。
誰かのために、何かを作ること。
こんなに満たされた気分になるものなんだ……。
あふれてきそうになった涙をこらえ、僕はフレンチトーストを口に運んだ。
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