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~マキ視点~
先輩が寝たのを確認してから、俺はリビングへ戻った。
「真希?まだ起きてたの?」
母親が俺に気づき声をかけてくる。
まだ飲んでいたのか。いくら酒に強いからって飲みすぎだろ……。
「ごめん、驚かせて」
俺は素直に謝る。
しかし、驚かせたのは今のことではない。
先輩とこの人が会ったときのことだ。
「そりゃあ、驚いたわよ。真希は純粋に女の子が好きだと思ってたから……。でも言った通り、私は反対しないわ。空くん、いい子だったし」
さすが母親。
俺の言いたいことをちゃんと理解している。
「でも、約束してね、真希。あの子と同じ道は進まないで」
強い視線、強い口調でくぎを刺される。
あの子、か。
「わかってる。俺はあいつとは違う」
「よろしい。……空くんのことなんだけどね、私、あの子に会ったことがあるのよ」
予想外の言葉に、俺は唖然とする。
「いつ?どこで?」
勢い込んで問う俺に、顔をしかめつつ答えた。
「あなたが中2の時に、駅のホームで」
俺が中2……先輩は高1か……。
駅のホーム、ときき、俺は嫌な予感がした。
「思いつめた表情で立っててね。まさかと思って声をかけてみたの。未来を大事にしなさいって。そうしたら家に帰るって言って去っていったのよ……」
やはりそうか。
先輩はずっと苦しんでいたんだ。
「今日会って、似てる子だなぁって思ってたのよ。表情が明るくなっててなかなか気づけなかったわ。真希、あなたのおかげね。空くんが笑っていられるのは、あなたのおかげよ。誇っていいわ」
「あたりまえ。先輩のために俺はいるんだから」
つい言いすぎてしまった気もするが、それは俺の本心だ。
先輩のために、俺はいる。
「にしても、空くんって、料理上手だったわね。掃除とかもできるのかしら?」
「先輩は家事は何でもできるって言ってた」
親が家にいないのだからできるようにもなるだろう。
ちなみに俺は何もできない。お手伝いさんが勝手にやってくれてしまうから。
「ふーん、そうなの……。いいこと思いついたわ。さ、真希。もう寝なさい」
何を思いついたのかは気になるが、この人のことだ。どうせくだらないことだろう。
「ん、おやすみ」
俺は自室に戻った。
ベッドには先輩が薄目を開けていた。
「んぅん……まき……?」
まだ半分夢の中といった様子で先輩が声を出す。
「どこいってたの……?」
「トイレです」
俺は答えて、先輩の隣に潜り込む。
そして、隣の先輩の頬に軽くキスをした。
「先輩、愛してます」
「んぅ……ぼ、くも……」
そうつぶやくと、先輩は再び夢の世界へといってしまった。
俺は満たされた気分で目を閉じた。
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