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マキに連れられ、マキの家に再び訪れる。
うーん、相変わらずデカい家だ……。
「ただいま」
マキが中に入り、言う。
僕はそれについていき、あぁ、そうだ。奏さんがいるんだった。と思い、一応「お邪魔します」という。
「あら、お邪魔しますだなんて。空くんは私の息子みたいなものだから気にしなくていいのに」
そんな声と共に、奏さんと目が合った。
「わっ」
びっくりした僕は変な声を出してしまう。
「お帰り、真希、空くん。ココア淹れてあるから手を洗って、リビングにいらっしゃい」
あれ、奏さんって、僕がココア好きって、知ってたっけ……。
マキが話したのかな?
手を洗い、リビングへ降り、席へ着く。
マキの前にはブラックコーヒー。奏さんの前にはミルクティー。僕の前にはココア。そして、真ん中に高そうなクッキー。
「空くん、これ見てくれるかしら?」
奏さんが一枚の紙を差し出してくる。
僕はそれを受け取り、目を通す。
「契約書……?」
その紙に書いてあった内容は、僕がこの家で働くというものだった。住み込みで。
「えっと、どういうこと、ですか?」
状況が呑み込めず、僕が聞くと、奏さんは優しく微笑んだ。
「私って、海外にいることのほうが多いでしょ?真希は家事出来ないし、お手伝いさんを雇っていたのだけど、高価なものも多いし心配だったの。だから、空くんにお願いできないかなって。衣食住付き、住み込みで働いてくれないかしら?」
あぁ、そういうことか。
僕は奏さんの真意に気づき、涙が出てきた。
「先輩、どうしたんですか?!」
急に泣き出した僕に、真希が珍しく取り乱す。
「う、うれし、くて……」
泣きじゃくりながらも、僕は途切れ途切れに答える。
奏さんは、ずっと一人の僕を気遣って、僕をこの家に住まわせてくれると言っているのだ。そして、僕が負い目を感じないよう、仕事と称して。
嬉しかった。
僕のことを思ってくれる人なんて、いなかったから。
誰も、僕の寂しさなんて、気付いてくれなかったから。
ふわりと、抱きしめられた。
奏さんが、僕を抱きしめてくれているんだ。
「いいのよ、泣きたいときは泣きなさい。それがうれし涙ならなおさらね」
優しく抱きしめ、髪を手で撫でてくれる。
年上の人に抱きしめられた記憶なんてなかった。
母親がいたら、こんな感じかな……。
凄く、温かい。
僕の手を、マキが握る。
ずっと、知らなかった感情を、僕はしっかりと実感した。
しあわせだ。
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