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放課後の独りきりの教室で、瀬戸悠希はため息をつく。
ついさっき、後輩に連れられ帰っていった空を想って。
子供の頃から、悠希は恋愛対象が同性だった。
高校に入学して、すぐに空のことが好きになった。けど、それは憧れ的なもので、アイドルを眺めるような、そんな感情だった。
それが最近になって、帰り道に空を見かけた。
知らない男子と歩く空は、普段学校で見せる表情とは違って、すごく、可愛かった。
かっこいい空には憧れを。
可愛い空には恋心を抱いた。
(かなうわけないってわかってたのにな……)
悠希は自虐的な笑みを浮かべた。
釣り合わない。
まず、男に恋するなんて引かれるに決まってる。
そう思っていたのに。
相手が男だったから、悠希はより深く傷ついた。
(もっと早く気付いて、言ってたら、なんか変わったかなぁ……。まぁ、ありえないよな……。オレなんてさ)
みじめな気分でいたら、自然と涙がこぼれてきた。
そこへ、教室の戸が開く音がした。
「悠希?まだいる?」
そんな声と共に、悠希の想い人、空が顔を見せる。
「え、悠希、なんで泣いてるの?」
うろたえる空は、可愛くて。
(ああ、オレなんでもっと早く気付かなかったんだろう。空はずっと可愛かったのに)
悠希はそう思った。
「なんで戻ってきたんだよ、忘れ物か?」
泣いている顔を見られたくなくて、悠希は顔をそらし、ぶっきらぼうに言った。
「悠希、言いたいことがあるなら言って。僕は悠希と仲良くなりたい」
空が真剣な声で言う。
言いたいこと?言いたい、こと……
「オレ、空が好きだ」
ぽろりと、本音が漏れる。
「え?なんて?」
キョトンとした顔で空は言う。
「うん、ずっと好きだった。ずっと。……でも、もういいや」
悠希は、空の頬にそっと口づけをした。
「えっ?悠希、いいいいま……」
うろたえる空に笑いながら、悠希は心の中で言う。
(泣かせるようなこととかあったらぜってー許さねぇからな)
悠希が好きなのは、真希とともにいる空。
空が空のままであるには、自分は友人であるべきなのだと、そう悟った。
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