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~時は少しさかのぼります~
課題が終わらず、いつもより少し遅れてしまいそうだったため、先輩にメッセージを送る。
『今日は少し遅れそうです。先に帰って下さい』
すぐに既読がつき、『教室で待ってる』と返信が来る。俺は先輩のことを想い、微笑むと課題に取り掛かった。
思ったよりも早く終わったな。先輩が待ってると、早く終わらせなければと思うからだろう。
俺は先輩の教室に向かった。
「先輩、終わりました。帰りましょう」
そう声をかけながら戸を開ける。
「あ、マキ」
先輩が俺に気づき、嬉しそうな声を上げる。先輩の隣にいた男子生徒が俺を鋭い視線で見た。
あ、動画撮ってたやつだ。
イラっとしながらも、先輩のもとに行く。
「動画、消してもらいましたか?」
「あ、うん。朝に」
どことなく挙動不審になりながら先輩が言う。その間にも、男子生徒は俺をにらみ続けている。
「どうも、真希くんだよね?オレは瀬戸悠希。空の友達でっす」
男子生徒、瀬戸悠希は、「空の」という部分を強調していった。
喧嘩売ってるのか、こい……この人。
「帰りましょう、先輩」
「うん。じゃあ、悠希、また明日」
「じゃあな~」
教室を出て、俺は舌打ちをこらえる。
先輩は全く気付いていなそうだが、あの瀬戸悠希とかいう奴は先輩のことが好きなようだ。注意しなければ。
「先輩、なんかあったんですか?本当に動画、消してもらえました?」
消してもらった、といった時の先輩の様子はおかしかった。何かあるに違いない。
「動画は消してもらった、けど……」
「けど?」
言いづらそうに先輩は続けた。
「悠希に、僕らが付き合ってるの、言っちゃった……」
「え、よかったんですか?」
さすがにそんなこととは思わなかった。
「うん。その、嘘ついたら、僕が真希のことすきっていうのを打ち消しちゃうみたいでいやだったから……。勝手に言って、ごめんね……」
「それはいいですけど……」
むしろすごく嬉しい。学校内じゃなければ抱きしめていただろう。
問題は瀬戸悠希だ。先輩のことを好き、というのは間違いないと思う。付き合っているのを知っているなら、今頃沈んでいるのではないか?
放っておいてもいいのだが、教室で楽しそうに話す先輩を思い出し、俺は言った。
「戻った方がいいですよ、先輩。瀬戸先輩とずっと仲良くしていたいなら」
「え、なんで?」
「いいから、行ってください」
戸惑いながらも素直に教室に戻る先輩を見送り、俺はため息をつく。
本当に、あの先輩は俺を惑わせてくるな……。そんなところも大好きだが。
「お人よし、だったか?今のは」
誰に言うわけでもなく、俺はつぶやいた。
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