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温かいココアとコーヒーを淹れ、マキの部屋に運ぶ。
「マキ、コーヒー」
僕は机の前に座るマキに声をかける。
「ありがとうございます」
マキは両手でそれを受け取り、息を吹きかけ、一口飲んだ。
「さっきの話なんですけど……」
「ん?お兄さんのこと?」
ココアのカップを置き、僕はマキを見る。マキの顔は強張っていた。
「はい。あいつは、縁切りを言い渡された奴なんです。先輩に言ってなかったのは、そういうわけで……」
縁切り?奏さんが、だろうか。それは恐らく相当なことをしたのではないだろうか。だって、あのおおらかで優しい奏さん
「なんで、縁切りしたの?」
「あいつは中学1年の時ぐらいから、男女問わず遊びまくってたらしいんです。俺も、両親も何も気づかなかった。それが、あいつが高校3年の時に、電話がかかってきたんです。同じクラスの女の子の親から……」
マキはそこで言葉を切り、コーヒーを飲んだ。カップを持つ手が、震えている。僕はどうしようもなく切なくなって、マキの開いている方の手を握った。
「妊娠したって、言うんです。母さん、もう驚いて謝って……あいつを呼んで、どうするんだって聞いたんですよ。そしたら、『いくら払えって?後で返すから適当にやっといて』って、言ったんです。キレた母さんと父さんが、あいつを追い出して終わり。……それから一度も会ってなかった……」
何故、マキはこんなにも苦しそうな顔をしているのだろうか。何がそんなに、厭だったのだろうか。
「マキ、なんで泣いてるの?」
僕の言葉にマキが笑う。
「泣いてないじゃないですか」
ううん、違う。泣いてる。僕には見える。マキの涙が、悲しそうな、苦しそうな表情が。
「すみません、俺が、もっと早く気付けば……。俺のせいで、あいつは……」
マキのせい?そんなわけはない。確かに、マキと会っていなければ、マキのお兄さんに会うこともなかっただろう。でも、マキと出会っていなければ、奥はこの世に存在していない。
「ありがと、マキ。僕、マキが来てくれた時、すごく安心した。あの人とキスしたとき、気持ち悪くてはきそうだった。僕はマキ以外としたくない。マキになら何をされても、たとえ殺されても、僕は厭じゃないよ」
多分、異常だ。
でも、これが本当の僕の本心であって、きっとマキもそれはわかってる。一度、殺してくれと、頼んだこともあるのだから。
「……あいつ、絶対何か企んでます。多分、先輩を狙ってます。だから、一人で過ごすことは控えて下さい」
「わかったよ、大丈夫、約束したでしょ?僕はマキから離れない」
やっと安心したように微笑んだマキと顔を近づけて、甘いキスを交わそうとしたところで……
「ただいま~。真希?空くんもう来た?」
元気な声と共に、奏さんが部屋に入ってきた。
「ぁ……」
「勝手に入らないでって言ってるじゃん。邪魔」
僕は羞恥で固まり、マキは不機嫌そうに舌打ちをする。
また、見られた……。
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