しあわせ

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 奏さんのにこにこした笑顔で見られるのがなんとなく恥ずかしくて、僕はまたマキの部屋に戻ってきていた。  マキ、まだかなぁ……。  ガチャリと戸が開き、マキが入ってくる。 「あ、マキ、おかえ……」  僕はそこで口を閉じる。  上半身裸で濡れた髪をタオルで拭くマキがいた。  水も滴るいい男……。  じゃなくて! 「あ、先輩……すいません、服持っていくの忘れて」 「いいいいや、だだだだいじょうぶ!」  湿った髪から水が垂れる。  上気した頬を伝う。  あ、無理。これ以上見たら壊れるわ、僕。 「先輩、見すぎ……」  若干恥ずかしそうにマキが言う。 「ごめん、マキがかっこよかったから、つい!」  僕は慌てて視線をそらし口走る。  ん?いや、言ってることおかしくね?! 「先輩」  思ったよりも近くからマキの声が聞こえて、僕の心臓ははねまくる。  ちらりと視線を向けると、マキがすぐ近くで僕を見ていた。  息がかかる距離。んんんんんんああああああああああ近い!  マキの顔が近づき、唇が降れそうになった時。 「真希、空くん、ご飯にしましょ」  ガチャリと戸が開き、奏さんが入ってきた。 「チッ」  マキが舌打ちをした。  あからさまにいやそうな顔をしている。  こんなマキ、初めて見た。 「チッじゃないでしょ。8時からご飯って言ったじゃない。さ、リビング集合」  名残惜しそうにマキが僕から離れる。  そして、服を着る。  僕はというと。  奏さんに見られた恥ずかしさで、とても立ち上がれそうにはなかった。
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