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「そういう事なら、話は早いよね〜。倒しちゃえばいいんでしょ?」
『そうなのですが……礎となる者が足りません……』
〖あ?んなもん、聞いてぇねけどよ、俺がやりゃいんじゃねぇの?〗
「あ、あの……礎とは何ですか?」
知恵さんいわく私が霊力を使うと自我を喪失してしまい粛清を愉しむ傾向があり霊力を使いこなせているとは言えず暴走しないとも限らない事から私の意識を維持させる為の礎となる存在が必要だと言うのだ。
「ねぇ、それならさ〜私が適任じゃないの〜?ねっ、芽衣!」
「えっ……で、でも……危ないかもしれないから」
〖姉ちゃん、危ねぇからやめとけ。芽衣、俺がやっから安心しろ〗
「はぁ〜?芽衣のお姉ちゃんは、わ・た・しなんだけど〜!?」
どうしてこうも危険な話を我先にと競い合うのかとオロオロする私の横で知恵さんはクスクスと楽しげに笑っていて緊張感がない。
彩月とまー君が危険かもしれないのに自分がすると言ってくれるのは嬉しいけれど出来れば一人で何とかしたいと知恵さんに小声で言うと小さく首を横に振り芽衣ちゃんの霊力は一人では制御が出来ないと言われてしまい自分の霊力のはずなのに情けなくなる。
〖聞きわけねぇ姉ちゃんだな、危ねぇっつってんだろーが!〗
「そんなの雅也君だって危ないじゃん!私も役に立ちたいのっ!」
『二人とも少し落ち着いて話ましょうか……』
見兼ねた知恵さんが声を掛けても聞く耳を持たない二人に私が何か言わなければと口を開きかけたものの目の前が真っ白になり驚いて声も出なくなってしまった。
土埃のような霧のようなモヤモヤが次第に消えて何が起きたかがわかったけれど知恵さんの思いきりの良さを見習うべきかは悩ましい。
「ちょ、えー!なにこれっ!?」
〖おいっ!アンタ、俺を殺す気かよ!?って、死んでっけどなっ!〗
二人の間に倒れる支柱は少なくとも人に向けてなぎ倒していい物ではなく笑い事ではないのに知恵さんはふふっと笑っている。
『さて……話の続きを──〖姉ちゃんは生きてんだぞっ!〗』
「あ〜いや〜。私が悪かったわけだしさ…知恵さん、ごめんなさい」
『あらあら、彩月ちゃんは素直で良い子ね』
今しがた支柱をなぎ倒したとは思えない優しい微笑みを浮かべて彩月の頭を撫でた知恵さんはついでのようにまー君に向かって言った。
『それから……あれはあなたを狙いましたから彩月ちゃんが怪我をする事はありませんでしたよ。心根は優しいのですね、雅也君……』
さり気なく酷い一言が聞こえた気もするけれど知恵さんに優しいと言われて照れくさいのかまー君はそっぽを向いてしまった。
「えへへ〜。ってか、知恵さん……今のどうやったの〜?」
『霊力です……名目上は遣女ですから……』
「へぇ〜!やっぱり遣女って凄いんだ〜!ってか、私ってどうなの〜?」
『名ばかりで良ければ遣女でしょう。不名誉なものですが……』
だよね〜と頷いたあと彩月の動きが止まって首を傾げている。
「彩月……?どうかしたの?」
「あ〜知恵さんって長女じゃないな〜って思って〜」
『ふふっ……書物では長女と書かれていましたものね……』
どうやら私達はまたしても書物に振り回されているようで記されていた話が知恵さんのお姉さんである長女で慣わしの元になったと書かれていただけで当時は霊力があれば神咲家の娘でなくとも遣女と呼ばれたそうだ。
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