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「ちょっと、殺めたって……息子に知恵さんは殺されたって事!?」
『ええ……偽の遺言まで作り不問と言いながら神咲家に呪いをかけられていると……後世が疑いを持つようにしたのでしょう。あわよくば呪いが受け継がれる事を願って。それほどまでに昌善を崇拝していたとは……』
悲しそうに溜息を零す知恵さんも犠牲者だけれど復讐こそが正しい行いと教えこまれた知恵さんの息子達もまた呪いの犠牲者なのだろう。
「あの……知恵さんの文書は偽物で呪いはなかったという事ですか?」
『ええ……強いて言うならば、私は願掛けをしていました』
「神社とか……そういう願掛け、ですか?」
『いいえ。刃物で刺され意識のある内に願掛けをしていた髪を切りました。死しても尚この世に留まり天葛を消し去るまで成仏はしないと……』
それが後世へのせめてもの助けになればとの思いから願掛けの為に伸ばし続けていた髪を死に際に握り鋏で切る事で成就させこの世に留まり続けた知恵さんは霊力の源となるこの場所でずっと天葛を抑え込み続け高い霊力を持つ子孫が現れるのを待っていたという。
〖わっかんねぇな、だったらなんで俺は成仏できねぇんだよ?〗
『それは昌善が自身に掛けた呪いのせいです』
昌善は死んだ後も呪いを継続させたいと考え年老いて亡くなった際に成仏してしまわないようにと自身に呪いを掛けており死後も平然と知恵さんの前に現れたそうだ。
しかし教えである復讐を全うしない事に腹を立てた昌善は知恵さんや子供達を恨むようになり呆気なく恨み辛みに呑まれて自滅し天葛に喰われた。
ところが天葛の基盤となっている昌善の執念が霧島家の血を引く者に受け継がれ成仏しないが出来ないという呪いに変わって背負わされる事になり天葛と図らずもリンクしてしまった事で大狐の姿に変わる事が出来るのだそうだ。
〖ほんっと余計な事しかしねぇなっ!〗
まー君が怒るのは当然だけれど腑に落ちない事がひとつある。
「本当に呪いは続かなかったのですか?祖母は何故……被害者に?」
『この世は混沌としています。芳恵さんは悲劇としか言えません。』
「あ〜頭がこんがらがってきたよ〜。じゃあ、呪いは昔だけ?」
『ええ……昌善が行ったものだけですから……呪いと呼べるかもわかりません……二代目は書物を改ざんしただけで誰も被害を受けていません』
言われてみれば過去の出来事は昌善が仕組んだもので祖母は被害を受けたけれど変質者の仕業であり呪いとは関係なく絹恵さんは祖母の罠に嵌められ命を落としたが呪いではない。
彩月も祖母に利用されたが呪いそのものではなく模倣にすぎず強いて言えば霧島家の血を引く子孫が成仏が出来ない事しか呪いらしい呪いがない。
「もしかして……呪いは天葛だけ……ですか?」
『その通りです……正しくは呪いになってしまった……天葛だけです』
やっと間違いに気付けた私は聞きたかった事を思いきって聞いてみる。
「その……天葛と対峙した事は……ありますか?」
『ええ、もう何度となく……神咲家と霧島家を繋ぎ夫婦となり昌善の子を産んだ私は勝ちも負けもしないのです……それは天葛とて同じです。根本となる昌善とは情はなくとも繋がっているのですから……』
霊力があるはずなのに知恵さんが何故ずっと待っていたかがわかった。
「どちらも……勝負がつかない、という事ですか?」
『ええ……天葛という呪いは私では消せません。神咲家の子孫でなければ。雅也君が天葛に触れる事さえ叶わなかったのは一族だからです……』
あまりにも私達は呪いにとらわれすぎていたのかもしれない。
どちらか一方の家の呪いではなく昌善という一人の人間の恨みや憎しみが怨霊に力を与えひとつの呪いになってしまった。
その執念とも言える強すぎる思いに血縁者は惑わされ書物を改ざんしてしまった事で子孫である私達は誤った知識を得てしまい全てを呪いに当てはめようとしていた。
しかし元を辿れば天葛しか呪いは始めからないのだ。
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