天葛ー彩月ー

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雅也君を追って空き地に入ってきた天葛(あまかづら)は慌てる様子もなく知恵さんや芽衣を見ても平然としていて不気味に感じる。 天葛(あまかづら)の目の前に立ちはだかる雅也君を馬鹿にするようにフンっと鼻で笑って知恵さんに視線を向けた。 【性懲りもなく我に挑む女子(おなご)に問おう。死人(しびと)遣女(つかわしめ)に何を望んでおる?】 『貴方が手に掛けた遣女(つかわしめ)が怖いのですか?』 【ふっ…実にくだらぬ。小娘ごときの霊力などおそるるに足らず】 『そうですか。ならば……身をもって知りなさいっ!』 知恵さんが言い終わると同時に放たれた黄緑色の流れ星のような光が天葛(あまかづら)の周囲を囲むようにして円を描き出したが当の天葛(あまかづら)は何食わぬ顔で大きな体をぶるりと震わせ光を弾く。 それでもなお光を放つ知恵さんとそれをことごとく弾く天葛(あまかづら)の攻防が繰り広げられ呆然と見つめていて不意に知恵さんが決着がつかないと言っていた事を思い出し不思議に思う。 チラッと雅也君を見ると天葛(あまかづら)から少し距離をとりながらもやっぱり不思議そうに知恵さんの様子を伺っていた。 【ぬぅ……お主、何を企んでおる?不毛な争いが目的ではなかろう】 『ふふっ……愚問ですね。余興は楽しむためにあるのですよ……』 そう言った知恵さんから一段と眩しい光が放たれると天葛(あまかづら)の姿はそこにはなく一人の中年男性が(たたず)んでいた。 「……父さん?」 後方から聞こえた霧島君の呟きに中年男性が亡くなった彼と雅也君の父親だと気付いて嫌悪感に思わず目を逸らすと繋いだ手にギュッと力が込められ驚いた私が芽衣を見ると小刻みに震えながらも見開かれた目は彼らの父親を凝視していた。 【ふんっ……我を幻に変える余興とはたわいない事を】 『あらあら、残念です──「……ふざけるなぁぁーッ!!」』 霧島君の絶叫とも雄叫びとも言える怒声(どせい)をあげながら天葛(あまかづら)に向かってゆく彼に驚いてしまい何も出来ない。 〖翔也(しょうや)!!〗 『翔也(しょうや)君!』 ほぼ同時に聞こえた雅也君と知恵さんの声にハッと我に返った私の目に飛び込んできたのは振り上げた拳を天葛(あまかづら)に叩き込もうとしていた霧島君がいとも簡単に前足で吹き飛ばされ宙を舞う姿だった。 咄嗟に飛び出したであろう雅也君が狐の姿になって滑り込んだ事でかろうじて地面に直撃はしなかったもののどこか痛むのか(うずくま)ったまま苦しそうに浅い呼吸を繰り返しているのがわかる。 駆け寄る知恵さんと天葛(あまかづら)を霧島君から引き離そうと飛びかかってゆく雅也君に圧倒されてパニックになりかけた私の手を芽衣にグイッと引っ張られた事で現実へと戻された。 「ダメっ!芽衣まで行っちゃ……」 慌てて芽衣の前に立ち塞がった私は二の句が告げなくなった。 てっきり芽衣は霧島君が心配で駆け寄ろうとして私の手を引っ張ったのだと思っていたけどそうじゃなかった。 何故なら目の前の芽衣は繋いだ手こそ離してはいないけど笑い声をこらえているのだから。 「しっかりして!私を見て!芽衣っ!」 「ふふふっ……あはははっ……」 本当に妹なのだろうかと我が目を疑いたくなるほど低い声で小さく笑う芽衣の目には私が映っていて声だって聞こえているはずなのにガラス玉のような空虚な眼差しは何の感情も見せてはくれない。 「芽衣!お願いだから、こっちを見て!」 「……粛清(しゅくせい)(ささや)きほどの呟きを発した芽衣の手が青白く輝き始めると私の手から腕を伝って例えるなら火花が目視出来るほどの静電気でバチッとなった時のような痛みが全身に走り思わず顔をしかめる。
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