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それでも手だけは離してはいけないと痛みを我慢しながら呼びかける。
「私に気付いて!芽衣!」
『彩月ちゃん!芽衣ちゃんの意識を!』
知恵さんを見やると動けない霧島君を庇うようにシャボン玉のような球体で彼の周りを囲っていて身動きが取れないようだ。
意識をこちらに向けなければとわかっていても良い方法が思い付かない私は芽衣の腕を掴もうとしてみたけど呆気なくすり抜けてしまう。
「芽衣?聞こえる!?」
『彩月ちゃん!芽衣ちゃんを抱きしめてあげて!』
「えっ、でもっ──『一時的に触れる事が出来るはずです!』」
知恵さんから放たれた飴色をした光がスっと私の体の中に入ってきて驚く間もなく体温は感じないけど確かに感触がある事に気付いて芽衣を思い切り抱きしめる。
「お姉ちゃんはここに居るよ、芽衣。」
「……さ、つき……?」
知恵さんのお陰で芽衣に触れる事が出来たけど痛みは先程とは雲泥の差で強くなっていて霊力の影響なのか皮膚や服が所々切れているものの今はそんな事はどうでもいい。
「芽衣?聞いて?粛清は楽しむものじゃないよ?」
「あの男……粛清……」
「わかってる!でも消し去るだけでいい、いたぶる事じゃない!」
「……ふふふっ……あはははっ!苦しめばいいっ!!」
無理だと思った私は後先を考える余裕すらなく芽衣を強く抱きしめて動けないようにしようと踏ん張るも信じられない力で押し退けられる。
「ダメーーーッ!!!」
声を限りに叫んだけど芽衣は一瞬で天葛に向けて青白い光を何度も放ち雅也君もろとも土煙で見えなくなってしまう。
「芽衣、やめて!雅也君がっ!」
名前を呼んでも掴んで揺さぶっても今の芽衣には目の前の男の姿が全てで天葛を消し去るという事よりも粛清の為なら誰が巻き込まれても気にもとめない様子で光を放ち続ける。
『彩月ちゃん!離れて!』
知恵さんの声に反射的に振り向いたせいで掴む力が弱くなった隙をついて私を押し退けた芽衣は一直線に天葛に向かって行く。
「芽衣っ!」
『彩月ちゃん!』
駆け寄ろうとする私を制する知恵さんの声が聞こえた時には芽衣が再び光を放っていて次第に土煙しか見えなくなった。
「「芽衣ーーーッ!!!」」
偶然にも霧島君と同時に叫んだようで二人とも待ちなさいと叱る知恵さんを無視して競うように走り出した私達が土煙を突っ切ると元の姿に戻った天葛の前足に踏みつけられている雅也君を見付けた。
「雅也君っ!」
〖来るんじゃねぇ!下がってろ!〗
そう言った雅也君の口から血が流れているのが見えていてもたってもいられなくなった私は天葛が目の前に居るのに恐怖心よりも心配が勝る。
【ぐっ…死人の小娘ごときが遣女とは小賢しい】
「………」
天葛の視線の先には全身から青白い光が出ているように見えるほど殺気立った芽衣が土煙に紛れて見えるけど何故か光を放とうとしない。
「芽衣!僕を見てよ!」
視界が悪くて気付かなかったが霧島君は芽衣のすぐ傍に居て触れられない事にもどかしそうにしながらも声を掛けていた。
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