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〖姉ちゃん、翔也を助けてやってくんねぇか〗
「えっ……う、うん、わかった。でも、ちょっと待って」
チラッと見やると霧島君と芽衣の方を向いている天葛は少なからずダメージを受けているのか雅也君を踏みつけたままではあるけど差ほど前足に力が入っている様子はない。
霊に触れる事が出来る今なら雅也君を助け出せると考えた私は天葛の前足に素早く近付き両脇に手を差し入れて一気に引っ張り木陰に連れて行く。
〖痛てぇよ、バーカ〗
「ちょっと!馬鹿とはなによ!?」
〖冗談だっツーの、ありがとな〗
「べ、別に……いいけど」
人の姿に戻っていて小学生の体を引っ張り出すくらい私でも出来ると言い返したいのにやけに大人びた笑顔で優しく撫でられた頭には間違いなく雅也君の感触があって確かにここに居るとわかるせいか戦いの真っ只中だというのにドキドキしてしまう。
〖アイツ、下手に手ぇ出せねぇんだろーな。悪ぃけど、弟を頼む〗
「あ、そっか。知恵さん、攻撃とか出来ないもんね。りょーかい」
木にもたれている雅也君にハンカチを渡して木陰から出た私は土煙が消えて見通しが良くなり目と鼻の先に居るとわかった霧島君と芽衣の元へ近付くと天葛がギロリとこちらに視線を移して足が震えそうになる。
【ぬぅ……霊力なき女子よ、我と相見えるは先刻振りであったか】
「そうだね。私は妹と彼に用があるだけで、邪魔する気はないけど」
「さつ、き……逃げ……て……。」
【ふっ……まだ理性が残っておったのか。死人の遣女風情が──!!】
天葛の言葉を遮るように放たれた光が先程まで雅也君を踏みつけていた右の前足に直撃した事で気付いた。
よく見ると天葛は左の後ろ足に重心をかけていないという事はダメージを受けた証拠で芽衣は前足を狙いたかったはずなのに雅也君が居たから理性できっと抑えていたのだろう。
芽衣が一人で意識を保とうと感情に呑まれそうになるのを堪えていると知り礎としての役割を果たせていない私に逃げてと言ってくれる妹にとにかく謝りたくて声を掛ける。
「芽衣、ごめ──「彩月さんは逃げて下さい。芽衣は僕が守ります」」
「ちょっと霧島君、なに言ってるの?君は礎じゃないんだから──「彩月さんは何も出来なかったじゃないかっ!僕なら芽衣を守れるんだ!」」
【ぬぅ……黙れっ!霊力なき女子に霧島の血を引かぬ者。汝等のような出来損ないは喰われて我の糧となるがいい!】
天葛の咆哮と共に火の玉のようなものが幾つも現れて私と霧島君を囲み始めると何故か体が動かなくなる。
『そうはさせません!』
かろうじて視界に入る知恵さんから放たれた光が火の玉のようなものを次々と消し去っているけど天葛はやはりダメージを受けてはいない様子で新たな火の玉のようなものが消された分だけ再び現れている。
【ふっ……愚かしい。お主の邪魔立てに何の意味がある?】
『あらあら、邪魔とは失礼ですね……これは──「粛清……」』
知恵さんの言葉のあとを引き継ぐようにして声を出した芽衣とタイミングを合わせたかのように放たれた二人の光の一方は私と霧島君に芽衣の光は天葛へと同時に二方向に分かれる。
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