天葛ー彩月ー

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バチッと電流のような音がして天葛(あまかづら)は芽衣に気を取られたのか私と霧島君を囲んでいた火の玉のようなものがわずかに小さくなったところへ知恵さんの光が届き瞬く間に全てを消し去った事で身体の拘束感が消える。 『二人とも……こちらに!』 その声に急いで離れた方がいいと判断して走り出した私の足元が何の前触れもなくフラついて何が起きたか理解が追いつかず立ち止まってしまう。 「じ、地震!?」 立っていられなくなりしゃがみ込んだ私は激しい揺れとゴォォォという地の底から響いてくる地鳴りの音に恐怖のあまり声をあげる事も忘れて(うずくま)っていると知恵さんの声が聞こえた。 『彩月ちゃん!これは天葛(あまかづら)が起こしています!早くこちらに!』 〖彩月っ!!俺と走れっ!〗 不意にグイッと腕を引っ張られた事で反射的に立ち上がった私は雅也君に言われるがままに知恵さんのもとへ急ごうとするけど揺れが激しくて思うように走れない事が余計に足を(すく)ませる。 〖落ち着け、彩月。手ぇ離すわけねぇだろ、怖ぇなら俺だけ見てろ〗 私の頬を左手で撫でて握り直された右手は力強くて真っ直ぐ見つめてくる雅也君だけを見ていると不思議と恐怖や焦りは消えていて激しい揺れも聞こえてくる地鳴りも何かが倒れて壊れる音も怖くなくなってこんな時に馬鹿じゃないかとわかっているけど彼が好きなんだとハッキリと自覚してしまった事に戸惑いながらも歩みを進めた。 『二人とも無事で何よりです……この中なら揺れませんから……』 シャボン玉のような球体に入ると嘘のように揺れが止まって思わず周囲を見回すけど外は激しく揺れたままらしく放置されていた様々な物が倒れたり転がったりしていて芽衣と天葛(あまかづら)の居る場所だけが閃光に包まれていて気がかりだけど様子は全くわからない。 〖っツーかアンタ、なんか隠してねぇーか?存在が空気すぎんだよ〗 『ふふっ。敵を(あざむ)くにはまず味方から……と言うでしょう?』 〖ったく……んで、なにすんだよ?早くしねぇーとやべぇだろ〗 『ええ、そこで彩月ちゃんにお願いがあります……』 唐突に話を振られてキョトンとしている私に知恵さんがギリギリまで隠していた作戦を簡潔に説明してくれた。 〖んな事させられるかよッ!姉ちゃんは隠れてろ、俺がやる〗 『神咲家の子孫でなければ駄目なのです。こればかりは……』 「大丈夫!やるよ、私。だからさ、雅也君は応援しててよ」 『雅也君はその間に翔也(しょうや)君をお願いします……』 これみよがしな溜息をついて不満顔の雅也君が心配してくれるのは嬉しいけど私だって神咲家の長女なんだから芽衣にばかり押し付けているのは嫌なのだと話すと渋々ながら納得してくれた。 『彩月ちゃん……くれぐれも気を付けて下さいね……』 「うん、大丈夫だよ。知恵さん、絶対に成功させようね!」 『はい……必ず成功させます。これが最初で最後なのですから……』 お互いに頷きあって知恵さんから受け取った小さな手斧を片手に球体から出ようとしたところで雅也君が私の腕を掴んで引き止めた。 「ん?どうしたの?雅也君も一緒に行く?」 〖俺は雅也な、姉ちゃん。まー君はやめろ。オラ行くぞ〗 えっ?と問い返した言葉にニカッと笑いながらポンポンっと軽く肩を叩いて外へ出る雅也君を追うように一歩を踏み出した私は突然の揺れに驚きつつも手斧をしっかりと握り作戦の為に慎重に歩き始めた。
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