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どうにもこうにも心配で彩月が向かっていった方向を何度も確認したが翔也をほったらかしにするわけにもいかない俺は弟を探す為に天葛と芽衣が居る場所に向かう。
狐に姿を変えて四本足でバランスを取りながら揺れる地面を歩いてた俺は一瞬グラッと視界が歪んだようになって慌てて踏ん張ったら揺れが止まった反動で感覚がバグっただけだと気付いた。
幽霊のくせに地震で歩けないってダサイ理由じゃなく状況を把握する為に意図的に揺れを体感してたんだが長すぎる地震で平衡感覚が瞬間的におかしくなったらしい。
三半規管なんてものがあってないような幽霊の俺でもフラついたって事実に彩月が転んで怪我してないか気に掛かるが今は弟を優先しなきゃならない。
翔也が妙な行動ばっかしてなんか変だって事には直ぐに気付いたんだが理由があってやってんのか聞く暇もないまんま天葛に踏みつけられる羽目になって幽霊は怪我なんてもんは当然しないのにヤツの一撃で俺は血を吐いた。
痛みがなかったのは良かったがどっから血が出てんだよって考える間もなく彩月が現れて俺を助けてくれた。
霧島の血筋ってだけでヤツのダメージ食らうのは不公平だろって思ったんだが無意識に擦った俺の手の甲にも彩月から受け取ったハンカチにも一滴の血も付かなくて幻覚だったって気付いた。
天葛ってのがどこまで強いのかわからないが芽衣にしかダメージは与えられないって事が目の前の光景で嫌ってほどわかった。
まるで青っぽい炎を纏ってるように見える芽衣が矢継ぎ早に光を放ってはヤツが避けて火の玉みたいなもんを飛ばしての繰り返しだったが確実に天葛が怪我を負ってるのがわかる。
当然の事ながら血は出てないが体中に切り刻まれたような傷が見えてそこに群がるように女の霊達が近付いては吹き飛ばされてんのに芽衣はケラケラ笑ってやがる。
高笑いのお手本みたいな声なんて初めて聞いたが完全に芽衣がヤツをいたぶる事を楽しんでるとわかる。
このままじゃヤバイと感じた俺は芽衣に声を掛けそうになったが翔也が見当たらないのと女の霊達が俺をニヤニヤしながら見てる事に気付いて仕方なくその場を離れようと一歩下がった瞬間ヤツの火の玉みたいなもんで吹っ飛ばされたがラッキーな事に倒れ込んだ目と鼻の先に弟が見えた。
〖おい、翔也!しっかりしろ!〗
「ぅ……ぅぅ……」
意識はあると確信が持てた俺が弟を咥えて背中に乗せた途端キャハハハって感じの耳が痛くなるような甲高い笑い声が聞こえて反射的に芽衣の方を向くと信じられないものが見えた。
何がどうなってんのかわからないが青白い光が縄や鎖みたいに細長くなって天葛の体をそれぞれ縛り付けて女の霊達に笑いながら右前足、左前足、右後ろ足、左後ろ足、首、尻尾をバラバラに引っ張られてるせいでヤツも苦悶に満ちた顔を見せている。
あれじゃ拷問じゃねぇかと独りごちた俺は天葛に同情する気はサラサラないが芽衣がヤバイと弟を背中に乗せたまま全力で走ってアイツの所に戻り見たまんまを伝えた。
『そんな……わかりました。彩月ちゃんに連絡します……』
そう言ってスマホを操作するアイツの余裕のない顔が一刻を争うと理解して翔也を地面に降ろした俺は弟を頼むと言い残し彩月と合流する為に作戦の最終地点となる葛藤の木を目指して走り出した。
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